補助だけでなく、都の対策はあちこちで後手に回っている印象が強い。市場で働くある男性は、「豊洲はもともと衛生管理のために密閉型の市場にするという方針で、シャッターもずっと閉めていた。それがコロナではアダになったのでしょうね。早く開けて換気すりゃいいのにと現場では話してたけど、ようやく最近になって開けるようになった」と明かした。また、ある店主は、「豊洲はどんなに感染者が出ても閉鎖できないでしょう。食の流通を止めるわけにはいかないし、市場っていうのは卸売市場法という法律に基づいて運営されているから、簡単には開けたり閉めたりできないんです。我々だって好き勝手には休めなくて、事前に東京都に届け出ないと休業すらできない」と話す。お役所仕事で対応が遅れているのではないかという疑念が拭えない。
仕入れのためにほぼ毎日、市場に出向くという老舗日本料理店店主は、今のやり方では感染拡大は止められないだろうと嘆息した。
「小池さんがどんなに『クラスターではない』と言っても、市場関係者も私たちも信じていません。だって、一部の店舗じゃないんですから。あちこちで誰それが感染したとか、今度はこっちの店から出た、なんて話してます。だけど、この問題が大きくなったら豊洲ブランドが傷つくということで、市場の人たちは私たちに対しても『感染の話は外でしないでくれ』と言ってきます。だけど、私だって市場に行けばいくつもの店を回るし、そういうお客さんが毎日どの店にも何百人も来るわけだから、1か所で出れば市場全体に広がるのは当たり前ですよ。それだって皆わかっているから、『市場にいるのは30分以内にしてくれ』なんて私たちにお願いがきているんです。それじゃあ感染は止まりませんよ」
市場内の飲食店店員は「お客さんがいなくて暇ですね」と肩を落として、こんな言葉を残した。「市場の人間の何分の一かが感染して、もはや関係者の命が守れないってとこまでいかないと、市場の機能を止めることはないでしょうね」――食の安全と市場関係者の安全を第一に考えた対策が急務だ。