ライフ

大掃除 半世紀前の主婦が見せた「禊のような」超絶テク

(写真/GettyImages)

年末になると思い出す、大掃除の思い出(写真/GettyImages)

 認知症の母(85才)の介護をすることとなった一人っ子のN記者(56才)が、母による大掃除での大活躍を振り返る。

 * * *
 私が子供の頃、大掃除は年末の必須行事だった。普段の掃除では発動しない大がかりな家事ワザのオンパレードで、大人の “本気”を見せつけられたものだ。気ぜわしくも妙にワクワクした高揚感が、認知症になったいまも母の心を躍らせる。

障子紙に霧を吹くと魔法のように“張り”が!

「ねぇNちゃん、今年の大掃除はどうするんだっけ?」

 久しぶりに母を訪ねると、唐突に聞かれた。年末に向けたハウスクリーニングの新聞チラシを見たのだろう。

 母がサ高住(サービス付き高齢者向け住宅)に転居してきて6年が経つ。最近は小さな自室の掃除も忘れるようになったのに、何かの拍子に “長年の習慣”を思い出すのだ。

 昨年まではエアコンや浴室掃除を業者さんに頼んだりもしたが、人の出入りが制限される今年は諦めねばならない。

「いいよ、そんなに汚れてないし」と答えると、がっかりしたようにため息をついた。

 母が先頭に立って家族の大掃除を仕切っていたのは半世紀も前。12月、師走に入ったある休日の朝、意を決した母の号令で、大掃除の火蓋が切られるのだった。

 父は毎年、網戸と換気扇の専任。普段は家事を手伝う姿などまったく見せないのに、「これはオレの仕事だ」と言わんばかりに手際がいい。洗剤や歯ブラシ、ボロ布、工具をズラリと並べて黙々と換気扇プロペラをこすった。

 母の方はカーテンを洗濯しながら、家中の棚や押し入れの中身を引っ張り出して整理。掃除開始早々、小さな家の中はたちまち足の踏み場もない戦場のようになる。元は適当に収まっていたのだから、わざわざ散らかすことはない気もするが、すべて引きずり出し、拭き清めて整理する。まるで禊のような作業が、母の大掃除だった。

 大した戦力にならない私はもっぱら母のアシスタントだったが、毎年楽しみな作業があった。障子の張り替えだ。

 まず古い障子紙をはがす前に恒例の穴開け。ここは子供の自分の出番だと盛大に指をズボズボッ。そして障子紙をはがした後の木枠に塗る糊は、ご飯粒を粥状に煮潰したものだった。米のでんぷんが強力な接着剤だと知るのはずいぶん後のことで、小鍋から刷毛で糊をすくう母はまるで魔法使いのように見えた。

 私がワクワクするのはこの後だ。新しい障子紙を張ると糊のあたりがグニャグニャするのだが、母が霧吹きで水を吹きかけてしばらく置くと見事にピーンと張った。まさにマジック。「ママすごい!」と、本気でつぶやいたものだ。

 部屋も片づき、障子も換気扇も新品のようにきれいになると、窓から冷たい風が吹き抜けて、見慣れた風景も新年用にリセットされた気がした。

何もしなくても新年はやって来るけれど……

「よし間に合った! これで年を越せるぞって、毎年パパが言うのよ(笑い)」と、母が楽しそうに笑った。いまの母には、半世紀前くらいの思い出話がいちばん効く。

「大掃除が終わる頃になると、お米屋さんがお餅を届けてくれたよね。“いよいよ”って感じだったなー」

 私も必死に記憶の断片をかき集めるのだが、大掃除のシーンは結構、鮮明だ。家族が一丸となって挑んだ経験は、旅行などより深く心に刻まれるのかもしれない。

※女性セブン2020年12月10日号

関連記事

トピックス

役者でタレントの山口良一さん
《笑福亭笑瓶さんらいなくなりリポーターが2人に激減》30年以上続く長寿番組『噂の!東京マガジン』存続危機を乗り越えた“楽屋会議”「全員でBSに行きましょう」
NEWSポストセブン
11月16日にチャリティーイベントを開催した前田健太投手(Instagramより)
《いろんな裏切りもありました…》前田健太投手の妻・早穂夫人が明かした「交渉に同席」、氷室京介、B’z松本孝弘の妻との華麗なる交友関係
NEWSポストセブン
役者でタレントの山口良一さんが今も築地本願寺を訪れる理由とは…?(事務所提供)
《笑福亭笑瓶さんの月命日に今も必ず墓参り》俳優・山口良一(70)が2年半、毎月22日に築地本願寺で眠る亡き親友に手を合わせる理由
NEWSポストセブン
高市早苗氏が首相に就任してから1ヶ月が経過した(時事通信フォト)
高市早苗首相への“女性からの厳しい指摘”に「女性の敵は女性なのか」の議論勃発 日本社会に色濃く残る男尊女卑の風潮が“女性同士の攻撃”に拍車をかける現実
女性セブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)
《1日で1000人以上と関係を持った》金髪美女インフルエンサーが予告した過激ファンサービス… “唾液の入った大量の小瓶”を配るプランも【オーストラリアで抗議活動】
NEWSポストセブン
日本全国でこれまでにない勢いでクマの出没が増えている
《猟友会にも寄せられるクレーム》罠にかかった凶暴なクマの映像に「歯や爪が悪くなってかわいそう」と…クレームに悩む高齢ベテランハンターの“嘆き”とは
NEWSポストセブン
六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)と稲川会の内堀和也会長
六代目山口組が住吉会最高幹部との盃を「突然中止」か…暴力団や警察関係者に緊張が走った竹内照明若頭の不可解な「2度の稲川会電撃訪問」
NEWSポストセブン
浅香光代さんと内縁の夫・世志凡太氏
《訃報》コメディアン・世志凡太さん逝去、音楽プロデューサーとして「フィンガー5」を世に送り出し…直近で明かしていた現在の生活「周囲は“浅香光代さんの夫”と認識しています」
NEWSポストセブン
警視庁赤坂署に入る大津陽一郎容疑者(共同通信)
《赤坂・ライブハウス刺傷で現役自衛官逮捕》「妻子を隠して被害女性と“不倫”」「別れたがトラブルない」“チャリ20キロ爆走男” 大津陽一郎容疑者の呆れた供述とあまりに高い計画性
NEWSポストセブン
無銭飲食を繰り返したとして逮捕された台湾出身のインフルエンサーペイ・チャン(34)(Instagramより)
《支払いの代わりに性的サービスを提案》米・美しすぎる台湾出身の“食い逃げ犯”、高級店で無銭飲食を繰り返す 「美食家インフルエンサー」の“手口”【1か月で5回の逮捕】
NEWSポストセブン
温泉モデルとして混浴温泉を推しているしずかちゃん(左はイメージ/Getty Images)
「自然の一部になれる」温泉モデル・しずかちゃんが“混浴温泉”を残すべく活動を続ける理由「最初はカップルや夫婦で行くことをオススメします」
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月20日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン