医者らしくない医者だからできたこと
自分自身の生き方を振り返ってみると、「医者らしくない医者」というのにこだわってきたように思う。病気になった人を治すだけではなく、病気にならないように地域を健康にする。治療以上に予防を重視した考え方は、ちょっと普通の医者と違っていたように思う。
ぼくが医師になったばかりの46年前は、まだ往診制度が細々とあったが、ほとんど行なわれなくなっていた。重い病気があれば病院に入院してもらって治療するというふうに考えられていた。
けれど、ぼくは脳卒中で障害が残ってしまっている人を、本当に病院で診続ける必要があるのかと思っていた。そこで、在宅ケアやデイケアを始めた。それが今、介護保険のデイサービス、デイケアにつながっていくのである。
医者らしく、病院の中だけで患者さんを治療していたら、老いや障害を抱えながら地域で生きていく患者さんに寄り添うことはできなかっただろう。
飛べない鳥のメッセージ
医師らしくないと言えば、最近、本や映画の本を書いた。『鎌田實の人生図書館』(マガジンハウス)である。
ぼくは本や絵本、映画が好きで、自分のブログに感想をよく書いている。ラジオでも、時々本や映画について取り上げている。そんなことを知ってか、ぼくの人生を作った本や映画について書いてほしいと依頼があった。コロナ禍のなかで、これまで読んだ本や絵本を読み返し、映画を見直して、なんとか412点に絞って掲載した。
そのなかに、『空の飛びかた』(作・絵ゼバスティアン・メッシェンモーザー、光村教育図書)という絵本がある。主人公が、空を飛びたくて飛びたくてうずうずしているペンギンと出会う。ペンギンは空は飛べない。なのに、飛びたいと願うペンギンは「らしくない」ペンギンだ。
主人公はペンギンと仲良くなり、家でご飯をあげたり、飛ぶ訓練をしたりするが、肥満気味のペンギンはなかなか飛べない。図書館に行って二人で文献的考察もして挑戦するが、やっぱり飛べない。その飛べないはずのペンギンが、ある日、空に羽ばたいていく。
「飛べるはずがない」「飛んではいけない」「危険なことをしてはダメ」という自分自身のブレーキや、社会のブレーキを外すことで、不可能を可能に変えることができた、そんな心温まる物語である。
もし、進路に悩んでいる若者や、もう一花咲かせたいと思っている中高年がいたら、この絵本をプレゼントしたいなと思う一冊だ。