捕まえるのではなく「未然に防ぐ」発想の転換
AI大魔神のますますの活躍に期待したいところだが、山内氏はなぜこのシステム開発に関心を抱いたのか。それは、本人の経歴に深く関係していた。
「神奈川県警の警察官だった父親が、定年退職後に小さな警備会社を作りました。私は大学(早稲田大)を出て大手通信企業(富士通)に入社し、2年ほど営業をやり、その後、父の会社に入りました。バブルが弾けてコスト削減、ロス削減が大きなテーマになっていた時代です。
当時、神奈川県内に警備会社は360社ほどあったのですが万引き犯捕捉を専門とする会社は10社程度でした。ならばロス削減をテーマに万引き捕捉をやってみるか、となったのです」
スーパーで保安員の経験をしながら勉強を積み重ね、28歳の時に独立して自ら警備会社を設立した。しかし、保安員としての体験で引っ掛かりを感じるようになっていた。
「不審な動きをする人を観察して後を付け、やったことを確認したうえで店外で捕捉するのですが、怪しいなと思っても実際に万引きをする人は10人に1人。捕捉にしても5日に1回とか、10日に1回とか、とにかく効率が悪い。しかも、本来なら万引きを止めさせればいいのに、捕捉というのは相手に万引きをさせるわけです。これは本質的に違うんじゃないかという思いが強くなりました」
その後、店舗内を巡回しながらお声掛け運動をしてみると棚卸でロス削減の結果が良好だった。そこで人件費をかけて非効率な捕捉にこだわるのではなく、カメラを使った検出システムを構築できないか。そうした思いが募り、開発に取り組んだ。
そして、2009年に満を持してAI搭載監視カメラ「サブローくん」を発売。これが累計1500台を超える発売で注目を浴び、さらに進化したシステムの「アースアイズ」を企画。2017年に発売を開始し、3代目までの累計販売が3000台に。そして2020年8月、エコバッグ万引きが社会問題化するなかで、「AI大魔神」の発売に漕ぎつけた。
「AI大魔神の頭脳はベテラン万引きGメンと同様です」と言う山内代表は、最後にこう力説した。
「AIは万引きを防ぎます。今後は音を聞き分けたり、匂いをかぎ分けたりする五感を備えたシステムを構築したいですね」
店と万引き犯との不毛な戦いにAIが終止符を打ってくれる──。そんな時代が近づいているかもしれない。