【著者インタビュー】新川帆立氏/『元彼の遺言状』/宝島社/1400円+税
海堂尊氏や中山七里氏などそうそうたるミステリーの書き手を輩出してきた『このミステリーがすごい!』大賞。2020年度、その栄冠に輝いたのは、新川帆立氏。『元彼の遺言状』は、奇妙な遺言状をめぐり、六十億とも言われる遺産の行方を追って曰くありげな人間関係が交錯する。
次々と推理のフェーズが変わる展開も鮮やかだが、それ以上に、ヒロイン剣持麗子のキャラクターが華麗だ。二十八歳の美貌の弁護士は、気が強くて傲慢でお金が大好き。そのくせどこか憎めない。そんな麗子が、学生時代に三ヶ月だけつき合った森川栄治の訃報をメールで受け取ったことから、彼の相続問題に巻き込まれていく。
「設定が派手なので、それに見合う規格外の主人公を……と考えていったら、彼女のようになりました。麗子と同世代の男性読者からは『麗子が冒頭からめちゃ怖くて』という感想もありましたが、『週刊ポスト』の読者くらい人生経験が豊かな男性なら、このくらい生意気な女性もかわいいと思ってくださるのではないかなと思います(笑い)」
創作のきっかけは、たわいないことだったという。
「もし過去につき合っていた人が亡くなったら悲しいかと考えると、悲しくないわけではないけれどお葬式に行くかは迷うし、微妙な関係性ですよね。実際に元彼から用もないのに連絡が来たことがあって、男性って不可解なことをするなとかえって興味を引かれたんです。そこを切り口にプロットを練り始めました」
腐心したのは、ミステリーとしての新しさをどう出すか。ふと思いついたのが、逃げた犯人を探すのではなく、「名乗り出てきた容疑者たちが、犯人の座を争う」形にすることだった。
栄治は、うつ病で静養中にインフルエンザにかかって急逝したと言われていたが、不可思議な遺書を遺していた。〈僕の全財産は、僕を殺した犯人に譲る〉。その一文に、殺人の可能性が示唆されている。死因に疑いを持つ栄治の幼なじみから依頼され、麗子は、遺産の分け前と真相を求めてひと肌脱ぐことに。
「ミステリー作家は、謎やトリックがまず浮かんで、それを軸にしてプロットを組み立てていく人が多いのではないでしょうか。でも私は最初に、テーマや設定を決めてしまったんですよね。
そこから、なぜあのような遺言状になったのか、犯人は誰なのかという“謎”と対峙することになるんですが、自分が仕掛けておきながらいつまでも解けなくて(笑い)。どういうオチにしようと悩んで悩んで、思いついたときにはすでに締切の三週間前! そこからは必死でした」