あぁコロナだ。大胆な筆遣いと鮮やかな色彩が特徴的な長谷川義史さんの絵も、いつもとは違う、どこか暗く寂しい雰囲気をまとっているようで、心が騒めく。
しばらく訪問はダメだと母親にたしなめられても、諦めきれない少年は母親や職員の目を盗んでホームを訪ねた。おばあちゃんの部屋はあそこかなと窓を見上げる少年に気付いた祖母が用意したのは、祖母お手製の、昔懐かしい糸電話だ。糸電話の赤い糸が、思い合う二人の言葉を繋ぐ。
「会えない分、思いは強くなるよ」
その力強い一文と、見開きで描かれる美しい星空のグラデーションに、思わず目頭が熱くなる。「会いたい」という気持ちは、行き場を失ったとしても、決して消えてなくなったりしない。
そんな当たり前のことを、私はすっかり忘れてしまっていた。室井滋さんの紡ぐ、どこまでも真っ直ぐで、誠実な言葉たちが、するすると溶け込んで、心地よく身体を満たしてゆく。
コロナ禍で変わってしまった日常を描いたお話でありながら、作中にそのような言葉は一切使われていない。それはきっと作り手の優しさと、込められた祈りだ。
「会いたくて会いたくて」いつの時代も変わらない、原始的で、当たり前の感情。いつかコロナ禍が過去になる日が来たとしても、会いたい誰かがいる限り、このお話は読み継がれてゆくだろう。
覆されてしまった私たちの日常の中で、決して覆されることのない思いは、この本の中で星のように煌めいている。
【評者プロフィール】
本間悠/明林堂書店南佐賀店 文芸・実用・児童担当。地元紙などで本を紹介する連載を持つほか、「ほんまくらぶ.com」の名でツイッターでも発信する。
※女性セブン2021年2月11日号