ライフ

【書評】室井滋の最新絵本 コロナ禍でも変わらぬ優しさと祈り

室井滋×長谷川義史の最新絵本『会いたくて会いたくて』

室井滋×長谷川義史の最新絵本『会いたくて会いたくて』

【書評】『会いたくて会いたくて』/室井滋(作)・長谷川義史(絵)/小学館/1200円+税
【評者】本間悠(明林堂書店南佐賀店文芸・実用・児童担当)

 まるでSF小説だ。

 2020年4月、勤務する書店のレジカウンターに物々しいビニールシートを張り付けながら、私はぼんやりとそんな事を思っていた。

 4月16日、緊急事態宣言は対象地域を全国に拡大し、それを受けて書店には人々が殺到した。何でもない週末の売り上げがクリスマスシーズン並みに跳ね上がる予想外の特需だったが、混雑する店内に感染への恐怖は募る一方で、とても手放しでは喜べなかった。

 マスクの着用と手指の消毒が義務付けられたが、どちらも容易には手に入らない。トイレットペーパーも飲料水も買えず、休校で在宅になった子どもたちのためにやらなければならないことはぐんと増えた。SNSには、日々垂れ流される、人々の不安と不満があふれていた。

 あの日から約9か月。

 来年には落ち着いているんじゃないか。私の呑気な素人目論見はやはり外れ、世界を大きく狂わせた小さなウイルスは、未だその猛威を振るい続けている。

 マスクも消毒液も手に入るようになったし、学校も再開した。2回目の緊急事態宣言を受けても、もうあの日のように混雑することはなかったけれど、日常は確かに変わってしまった。

 年末年始、帰省出来なくなったお孫さんに送る絵本を選ぶお手伝いをした。お正月のおもてなし料理の本はさっぱり売れず、それは「会わない」ことを決めた人たちの無言のアピールのようだった。「今年は会えますように」いただいたどの年賀状にも、再会を願うメッセージが綴られていた。

 そんななか手元に届いたのが、室井滋さん・長谷川義史さんがタッグを組んだ新刊『会いたくて会いたくて』だ。

 大好きなおばあちゃんが入居するひまわりホームへの訪問を楽しみにしている少年。きれいな花を届けようかな、上手に出来たてるてる坊主を見せたいな……明るく綴られる絵日記に、落とされる暗い影。ホームが面会謝絶となってしまうのだ。

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン