芸能

綿引勝彦さんの美学「主役に失礼だから引かない。負けてたまるか」

綿引勝彦さんが語った役者の美学とは?

綿引勝彦さんが語った役者の美学とは?

 映画史・時代劇研究家の春日太一氏による、週刊ポスト連載『役者は言葉でできている』。今回は、先日、亡くなった綿引勝彦さんが語った役者の美学についての言葉を紹介する。

 * * *
 綿引勝彦が亡くなった。本連載には二〇一四年にご登場、さまざまな演技論・役者論を語っていただいた。

 そこで今回は、そんな綿引の「言葉」を改めて紹介したい。

 綿引といえばテレビドラマ『天までとどけ』(九一~九九年、TBS)に出演して以降、温かみのあるイメージも持たれるようになったが、それ以前は悪役──しかも、どこからどう見ても恐ろしい悪役を得意としていた。

 インタビュー時には、そうした悪役を演じる時に意識してきたことも聞いている。

「僕としては別に『悪』を演じているつもりは全くなかった。『悪』を前に押し出して演じるんじゃなくて、そんなのは後の方に飛んでいて『こういう人間をいかに料理して演じるか』ということです。善悪なんて、意味のないことですよ。

 それから、善悪問わず、主役と対等に立っていなきゃいけないと意識していました。自分も立ち役として成り立っていないと、主役に失礼だから。役者にとって、『引く』なんてことは、まずないですよ。みんなそうだと思う。『この人に負けない』『こんな奴に負けてたまるか』そんな想いでやっています」

 決して引かない──そんな綿引のスタンスが画面に抜群の迫力をもたらせたのが、映画『鬼龍院花子の生涯』(八二年)だ。ここで綿引は主人公の侠客・鬼政(仲代達矢)を狙う刺客「三日月次郎」を演じ、仲代と壮絶な一騎打ちを展開している。

「仲代さんを狙う刺客の役で立ち回りもあったんですが、僕は殺陣が苦手で。ただ遮二無二やった記憶があります。とにかく力任せにやるしかできなかったから、相手を傷つけたこともありました。仲代さんに対しても、そうです。がむしゃらに行きましたから、危なかったと思いますよ。その必死さが画面に出ていたんじゃないでしょうか」

 実は綿引は高校時代に仲代主演の舞台を観て感銘を受け、役者の道に進んでいる。それだけに、東映の大作映画で仲代と一騎討ちする場面を演じることには、万感の想いがあったという。

「こちらは敵役なので『あなたが好きで役者になった』なんて一言も言いませんでした。もう『負けるもんか』という想いで演じていましたね。その後のテレビドラマで共演させていただいて、『あなたの芝居を見て演劇を目指し、「鬼龍院花子の生涯」でお会いした時は、もう胸が張り裂けんばかりの感動を覚えました』と伝えることができました。その時は、『俺もここまでやっとたどり着いたか』という想いがありました」

関連キーワード

関連記事

トピックス

2014年に結婚した2人(左・時事通信フォト)
《仲間由紀恵「妊活中の不倫報道」乗り越えた8年》双子の母となった妻の手料理に夫・田中哲司は“幸せ太り”、「子どもたちがうるさくてすみません」の家族旅行
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(左/Xより)
《大学時代は自由奔放》学歴詐称疑惑の田久保市長、地元住民が語る素顔「裏表がなくて、ひょうきんな方」「お母さんは『自由気ままな放蕩娘』と…」
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《自宅から遺体見つかる》遠野なぎこ、近隣住民が明かす「部屋からなんとも言えない臭いが…」ヘルパーの訪問がきっかけで発見
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《大谷翔平バースデー》真美子さんの“第一子につきっきり”生活を勇気づけている「強力な味方」、夫妻が迎える「家族の特別な儀式」
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
田久保眞紀市長の学歴詐称疑惑 伊東市民から出る怒りと呆れ「高卒だっていい、嘘つかなきゃいいんだよ」「これ以上地元が笑いものにされるのは勘弁」
NEWSポストセブン
東京・新宿のネオン街
《「歌舞伎町弁護士」が見た性風俗店「本番トラブル」の実態》デリヘル嬢はマネジャーに電話をかけ、「むりやり本番をさせられた」と喚めき散らした
NEWSポストセブン
横浜地裁(時事通信フォト)
《アイスピックで目ぐりぐりやったあと…》多摩川スーツケース殺人初公判 被告の女が母親に送っていた“被害者への憎しみLINE” 裁判で説明された「殺人一家」の動機とは
NEWSポストセブン
遠野なぎこ(本人のインスタグラムより)
《女優・遠野なぎこのマンションで遺体発見》近隣住民は「強烈な消毒液の匂いが漂ってきた」「ポストが郵便物でパンパンで」…関係者は「本人と連絡が取れていない」
NEWSポストセブン
記者が発行した卒業証明書と田久保市長(右/時事通信)
《偽造or本物で議論噴出》“黄ばんだ紙”に3つの朱肉…田久保真紀・伊東市長 が見せていた“卒業証書らしき書類”のナゾ
NEWSポストセブン
JESEA主席研究員兼最高技術責任者で中国人研究者の郭広猛博士
【MEGA地震予測・異常変動全国MAP】「箱根で見られた“急激に隆起”の兆候」「根室半島から釧路を含む広範囲で大きく沈降」…5つの警戒ゾーン
週刊ポスト
盟友である鈴木容疑者(左・時事通信)への想いを語ったマツコ
《オンカジ賭博で逮捕のフジ・鈴木容疑者》「善貴は本当の大バカ者よ」マツコ・デラックスが語った“盟友への想い”「借金返済できたと思ってた…」
NEWSポストセブン
米田
《チューハイ2本を万引きで逮捕された球界“レジェンド”が独占告白》「スリルがあったね」「棚に返せなかった…」米田哲也氏が明かした当日の心境
週刊ポスト