長谷川さんに、おばあちゃんの記憶を尋ねると──。
「ぼくのおばあちゃんは近所に住んでいて、女の人やから、すごいかわいがってくれてんねんけど、子供にしたらすごい口うるさいっていう印象でした。『大丈夫か、義史』『ほらほら! ああせえ、こうせえ』と言われて『もう、うるさいなぁ、おばあちゃん』って(笑い)」
長谷川さんが祖母をそんなふうに語ると、すかさず室井さんが「じゃあ、いまは私のことをそう思っているわけ?」とツッコみ、「うん、そんな感じ」と長谷川さん。さすがつきあいの長い2人、まるで夫婦漫才のような軽快なかけあいをみせる。
絵本では、老人ホームで暮らすおばあちゃんが窓から糸電話を差し出して、訪ねてきたケイちゃんとお話をする場面がある。糸電話も室井さんと祖母とのエピソードかと思えば、意外な答えが返ってきた。
「これはね、遊び半分で自粛中に家でやっていたんですよ(笑い)。一緒に暮らしているおじさん(*編集部注/映画監督の長谷川和彦さん)は私よりも一回り年上で持病もあるから、何かあったらいけないと思って。なるべく近寄らないようにするよって、トイレットペーパーの芯で作った糸電話で話していたんです。で、それを『女性セブン』のエッセイで書いたら反響が大きくって(笑い)。絵本を書きながら、いまの子はきっと糸電話なんて知らないだろうなって」(室井さん)
絵本の中では、赤い糸で結ばれた紙コップの糸電話が登場する。
「おじさんとの糸電話は白い糸でした(笑い)。故郷の富山には大きな運河があって、夜になると運河にかかる橋にプーッと赤い糸を張ったようなネオンが灯るんです。地元では糸電話の愛称があって、“会えなくても、目に見えない糸でつながっている”という絵本のメッセージとぴったりだなとひらめきました」
《もしもしおばあちゃん、元気? ボク、会いたくて、会いたくて》
《ハハハ、元気元気。よく聞こえるよ》
《エヘッ、これ、何ていうもの?》
《糸電話さ。ママが子供ん頃、よく作ってやったもんさ》
糸電話の赤い糸に乗って、おばあちゃんとケイちゃんの会話がポンポンとリズムよく流れる。携帯電話やメールもない時代に遠く離れた相手へどう気持ちを届けていたのか、おばあちゃんの昔話で時代が遡っていく。その背景には幼い時代のケイちゃんのママの姿やちゃぶ台、足踏みミシンなど、長谷川さんが描いた昔懐かしいアイテムが賑やかに並ぶ。
「メールやテレビ電話も便利でいいけれど、糸電話のようにアイディアひとつで連絡することがすごく面白い体験になったり、いつもとは違う発見があったりするもの。いまだからこそ気づくこともあるはずで、絵本にも身近な幸せに気づかせてくれるものとして四つ葉のクローバーを登場させました」
いちばん会いたい人へどうしたら想いを伝えられるか。絵本が大切な人とつながる幸せを見つけるきっかけになれば、と室井さんは語った。
文/渡部美也 写真/浅野剛
※女性セブン2021年2月18・25日号