林:例えば、子供たちが集まる駄菓子屋さんにコロナなんだから閉めろと迫っちゃうとか。このコロナ禍で世の中がすごく不寛容になったと感じています。森さんの例の発言にしても根底にはぬぐい難い男尊女卑の思想があるんですよ。おそらく男性が女性を守ってやっているという感覚もあって、若い人はあの発言を聞いて“え~っ!?”と思うけど……。
柴門:思うけど、それは世代間の価値観がそもそも違うのであって。私たちが驚くような価値観でも、年代が上がるほど世間が思うほど男尊女卑をつらくは感じていない。うちの母や姑も男は立てるものと刷り込まれていて、そうは意識も変わらないもの。
林:そうそう、その世代の男性にいまさら女を立てろと言っても無理ですよ。騒動の最中にミッツ・マングローブさんがそうした旧世代の人たちと共存しながらいまを生きて、新しい時代を開いていかなくちゃ、と話していてその通りだなって。
昭和の価値観が時代にそぐわないことがあったとしてもいずれ世代は交代するわけだし、上よりも下、いま育っている若い人たちのことに目を向けたい。将来、彼らが私たちの娘や孫のパートナーとなってくれると思えばありがたいと思いますけどね。
柴門:そうですね、ありがたい。逆に私の同世代で管理職に就いている女性は、部下の男性が子供をお風呂に入れるから帰宅するのが信じられない、と話しています。女性が社会へ出て男性化しているからでしょうけれども、そういった世の中の価値観というのは30年くらいかからないと変わらないんでしょうね。
林:価値観はすぐに変わらなくても時代は変わってきている。その中で時たま森さん的なものが出てきても、こんなに叩かなくていいのに。
柴門:怖いのは、叩くにしてもそれが正しいと信じてやっていることではないかなと。コロナの自粛警察しかり、よかれと思ってやっているから迷いがなくて、怖いんです。
林:そうね。自分が正しいと思って人を叩くのはすごく恥ずかしいことだと私は思う。“そうはいっても自分もいろいろあるしな”“自分だっていい加減だしな”なんて一歩引くことができるのはそれこそ昭和的な価値観で、昭和の人間のいいところなんじゃないかなとも思います。
【プロフィール】
林真理子(はやし・まりこ)/1954年生まれ。コピーライターを経て、1982年に出版したエッセイ集『ルンルンを買っておうちに帰ろう』が大ベストセラーに。『不機嫌な果実』『アッコちゃんの時代』『西郷どん!』など著書多数。1986年『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞、1995年『白蓮れんれん』で柴田錬三郎賞などを受賞。2018年に紫綬褒章を受章し、『週刊文春』で連載中のエッセイは2020年に「同一雑誌におけるエッセイの最多掲載回数」としてギネス世界記録に認定された。
柴門ふみ(さいもん・ふみ)/1957年生まれ。漫画家。1979年『クモ男フンばる!』でデビュー。代表作に『東京ラブストーリー』『同・級・生』『あすなろ白書』(いずれも小学館)など「恋愛の神様」と呼ばれるほどいくつもの名作を生み出し、ドラマ化された作品も多数。『結婚の嘘』(中央公論新社)、『老いては夫を従え』(小学館)など、恋愛や結婚、女性の生き方を鋭い筆致で書くエッセイにもファンは多い。
取材・文/渡部美也 撮影/田中麻以
※女性セブン2021年3月11日号