国内

スーパーボランティア尾畠さん「明日は我が身で行動することが大事」

(撮影/平田淳)

しっかりとした口調で語る尾畠さんは、震災直後に訪れた南三陸町の話になると言葉を詰まらせた

 2月13日、福島県沖を震源とするマグニチュード7・3の地震が発生した。宮城県仙台市の小学校教諭・西田優子さん(仮名・41才)が振り返る。

「あの一瞬で10年前のことを思い出しました。何とか立ち直って忘れていた部分もあったけれど、被災時を思い出して不安になりました」(西田さん・以下同)

 コロナ禍に右往左往するなか、「あの地震で3.11を思い出した」という人は多い。

 震災で友人を失った西田さんは、記憶を語り継ぐ難しさを感じている。

「小学校では、毎年3月11日になると、震災の復興プロジェクトとして、『こんなことがあったんだよ』と当時の出来事を語り継ぎます。私は2年生を受け持っていますが、震災時に子供たちはまだ生まれておらず、伝えたところで『わからないんだな』という感覚はあります。

 わからない人たちに伝える虚しさがある一方、震災で親やきょうだいを失った子供にはケアが必要で、語り継ぐにも細心の注意が必要です」

 忘れることも、思い返すこともベストな選択肢とはいえない。10年という月日によって、西田さんのように板挟みとなっている人も被災地には存在する。

 民俗学者の畑中章宏さんは、美談ばかり語られるのは不健全だと投げかける。

「震災以後、死者と生者の複雑な関係がステレオタイプの美談で報じられることが多くなりましたが、死んだ者にも恨みつらみがある人もいれば、生き残った者には死者への後ろめたさや申し訳なさがあるはずです。そうした感情にふたをして、やれ『感動の再会』や『幽霊でもいいから会いたい』など、美しい部分だけに目を向けていては“心の復興”はいつまでたっても難しいのです」

 スーパーボランティアとして知られる尾畠春夫さん(81才)も、震災後に大分の自宅から宮城県南三陸町まで車を飛ばして駆けつけた1人だ。

 それまでも2004年の新潟県中越地震など数々の被災地にボランティアに訪れていた尾畠さんだが、そこは別世界だったと振り返る。

「ほかの被災地とは全然違う、本当の地獄絵図だった。暖かくなると遺体のにおいがぼわーっと漂ってきて、自衛隊や消防を呼んで対処してもらった。正直、ショックでした」(尾畠さん)

 悲惨な光景を目の当たりにしたことで、それまで浴びるように飲んでいた酒を断ち、「被災者の立場に立った支援」を訴え続けようと誓った。

「みんな10年で区切りをつけたがるけれど、被災者にとっては10年も11年目も同じ。いまもまだ仮設住宅に住んでいる人がいる。大切なのは、『自分が被災したらどうなのか』と、被災者の立場になって考えること。思いの寄せ方は人それぞれだろうけれど、『明日はわが身』と考えて行動することが大事じゃないか。ぼくは東北の仮設住宅がすべてなくなるまで、アルコールには口をつけんつもりです」(尾畠さん)

※女性セブン2021年3月25日号

関連キーワード

関連記事

トピックス

12月9日に62歳のお誕生日を迎えられた雅子さま(時事通信フォト)
《メタリックに輝く雅子さま》62歳のお誕生日で見せたペールブルーの「圧巻の装い」、シルバーの輝きが示した“調和”への希い
NEWSポストセブン
宮崎あおい
《主演・大泉洋を食った?》『ちょっとだけエスパー』で13年ぶり民放連ドラ出演の宮崎あおい、芸歴36年目のキャリアと40歳国民的女優の“今” 
NEWSポストセブン
悠仁さまが2026年1月2日に皇居で行われる「新年一般参賀」に出席される見通し(写真/JMPA)
悠仁さまが新年一般参賀にご出席の見通し、愛子さまと初めて並び立たれる場に 来春にはUAE大統領来日時の晩餐会で“外交デビュー”の可能性も、ご活躍の場は増すばかり
女性セブン
大谷翔平選手と妻・真美子さん
《チョビ髭の大谷翔平がハワイに》真美子さんの誕生日に訪れた「リゾートエリア」…不動産ブローカーのインスタにアップされた「短パン・サンダル姿」
NEWSポストセブン
日本にも「ディープステート」が存在すると指摘する佐藤優氏
佐藤優氏が明かす日本における「ディープステート」の存在 政治家でも官僚でもなく政府の意思決定に関わる人たち、自らもその一員として「北方領土二島返還案」に関与と告白
週刊ポスト
石原さとみ(プロフィール写真)
《ベビーカーを押す幸せシーンも》石原さとみのエリート夫が“1200億円MBO”ビジネス…外資系金融で上位1%に上り詰めた“華麗なる経歴”「年収は億超えか」
NEWSポストセブン
ハワイ別荘の裁判が長期化している(Instagram/時事通信フォト)
《大谷翔平のハワイ高級リゾート裁判が長期化》次回審理は来年2月のキャンプ中…原告側の要求が認められれば「ファミリーや家族との関係を暴露される」可能性も
NEWSポストセブン
神田沙也加さんはその短い生涯の幕を閉じた
《このタイミングで…》神田沙也加さん命日の直前に元恋人俳優がSNSで“ホストデビュー”を報告、松田聖子は「12月18日」を偲ぶ日に
NEWSポストセブン
高羽悟さんが向き合った「殺された妻の血痕の拭き取り」とは
「なんで自分が…」名古屋主婦殺人事件の遺族が「殺された妻の血痕」を拭き取り続けた年末年始の4日間…警察から「清掃業者も紹介してもらえず」の事情
(2025年11月、ラオス。撮影/横田紋子)
熱を帯びる「愛子天皇待望論」、オンライン署名は24才のお誕生日を節目に急増 過去に「愛子天皇は否定していない」と発言している高市早苗首相はどう動くのか 
女性セブン
「台湾有事」よりも先に「尖閣有事」が起きる可能性も(習近平氏/時事通信フォト)
《台湾有事より切迫》日中緊迫のなかで見逃せない「尖閣諸島」情勢 中国が台湾への軍事侵攻を考えるのであれば、「まず尖閣、そして南西諸島を制圧」の事態も視野
週刊ポスト
大谷翔平と真美子さん(時事通信フォト)
《自宅でしっぽりオフシーズン》大谷翔平と真美子さんが愛する“ケータリング寿司” 世界的シェフに見出す理想の夫婦像
NEWSポストセブン