パワハラについても、「男らしさ」の罠のために、男性が被害者だとなかなか取り合ってもらえない。特に加害者が女性の場合のパワハラなどは、あり得ない、と考える風潮すらあるようだ。
「部下へのあたりが強いことで有名な女性上司がいるのですが、いわゆるイケメンには優しく、そうでない男性部下には容赦ない。幸い私はターゲットにされませんでしたが、同期の男性が毎日2時間以上説教を受け続け、飲み会に行けば酒を強要され、彼女もいないし結婚もできない甲斐性なし、仕事もできない給料泥棒だと皆の前で吊し上げられたのです」
この上司が部下にしたことは、当たりが強いという程度ではないように思われるが、訴え出ようものなら「男のくせに根性がない」と言われる雰囲気が強く、部下は声を上げなかった。加害者が女性で被害者が男性、という旧来の「男らしさ」の常識ではありえない属性と関係だったために、被害が見過ごされた例のひとつだろう。
神奈川県内の大手日用品メーカー勤務・野口沙織さん(仮名・20代)の会社でも、ある男性社員が複数の男女の上司、同僚からパワハラを受けており、最後はセクハラ被害にも遭っていたが、男性へのパワハラは「あってないもの」とされていたという。当然、男性が受けたセクハラ被害についても「存在しない」扱いをされ、被害に遭った被害者男性は泣き寝入りすることになった。
「女性社員が攻撃されていれば、言い過ぎですよと諌めてくれる男性上司がいますが、彼がやられていても誰も止めないし、笑いのタネとなる。同期の男は笑って『すいません』と冷や汗をかいていましたが、女性上司はその汗を見て汚い、臭い、近寄るなとまで言います。間もなく彼はピタッと会社に来なくなり、そのまま辞めました。精神科に通っていたようで、もう会社が耐えられないと。パワハラを加えていた女性上司は、今も何食わぬ顔で会社にいます」(野口さん)
また、被害者が女性のパターンと比較すると数は少ないのかもしれないが、男性が痴漢の標的になることもある。中学生の頃から電車内や学校で、成人してからは会社内でも、異性や同性を問わず痴漢被害を受けた経験があるという都内在住の公務員・森田悠人さん(仮名・20代)が打ち明ける。
「中高時代、満員電車の中に立っていると、下半身を触られることがよくありました。相手はほとんどが中年の女性。ズボンのポケットの中に手を入れられ『次の駅で降りましょう』と誘われます。サラリーマン風の中年男性からも、同じことをされました」(森田さん)
あまりのショックに友人や親、教師に相談したが、返ってきたのはやはり「笑い」だ。