ライフ

西村健氏 震災とサリン事件…劇的な1995年を描く長編『激震』を語る

西村健氏が新作について語る

西村健氏が新作について語る

【著者インタビュー】西村健氏/『激震』/講談社/1900円+税

 26年前のあの日、自分はどこで何をしていただろうかと、思わず自問せずにはいられなくなる1冊だ。

 西村健氏の最新作『激震』。戦後50年にあたるその年、巷談社の月刊『Sight』記者〈古毛冴樹〉はいつになく多忙な毎日を送っていた。1月に阪神・淡路大震災、3月に地下鉄サリン事件が起き、他にも國松長官狙撃事件や沖縄米兵少女暴行事件、二信組事件や大蔵省接待汚職事件等々、彼の記者仲間が〈矛盾が一気に噴き出して来た感じだな。戦後、営々と築いて来たこの国の神話が次々と崩壊してる〉と嘆く節目の年、1995年が、本書の真の主役だ。

 故郷の炭鉱町に層を成す光と影の昭和史を活写した『地の底のヤマ』等で知られる著者自身、東大工学部から労働省を経て、講談社『Views』記者に転じた異色の経歴を持ち、神戸市の焼け跡から発見された男の刺殺体を巡るミステリーとして、あのただでさえ劇的な1年を描くのである。

 震災当時、現地には?

「いや。行けと言われても行けなかったと思います。特に役人時代に赴任した監督署の管轄する長田区。合成靴やゴムの零細工場が密集し、労働問題に事欠かなかった町が炎に呑まれる様は、テレビですら正視に堪えなくて。担当したのは長田とかソープ街で有名な福原とか、いわゆる神戸とは趣の異なる地域でしたが、純粋に面白かったんですよ。人間が理屈や体裁じゃなく、生身で生きてる感じがして。

 そんな思い入れもあって、雑誌が今とは桁違いに売れ、その熱気の只中で私自身も記者として戦った1995年を書こうと。要するに記者の古毛は狂言回しで、実質的な主人公はあの時代であり、その光と影を丸ごと投影させたヒロイン〈余寿々絵〉や、古毛が取材を重ねる東大中退のオウム信者〈桐田純人〉なんだと思います」

 1月17日未明。M7.3の直下型地震が阪神全域を襲ったとの一報を自宅で受けた翌日、古毛は予算の潤沢な写真週刊誌に便乗する形で一路神戸へ。被災地に留まり、公園に簡易テントを張って野宿仲間と鍋を囲んだり、不動産屋で安いアパートを探して拠点にしたりと、取材の実際がまず興味深い。

「月刊誌は速報性を欠く分、読むに値する題材をじっくり探せるのが強みで、逆に言うと見つかるまで帰れない。現地の状況については実際に取材に行った人に話を聞きながら、市内に入るには新神戸からいったん山側に抜け南下すると早いとか、有馬温泉がメディアの拠点と化したとか、細部は出来る限り再現しました」

 そして神戸市内の火災跡で、古毛は焦土に佇む女の瞳に魅入られたのだ。

〈横顔に夕陽が差し、赤く照り映えた〉〈あの眼だ〉〈俺はあれと同じ光の眼に、出会ったことがある〉〈アフガニスタン内戦の戦場を取材した時だ〉〈中でも最も若い兵士と、古毛は話した。まだ十三歳で、戦闘に参加するのは今回が初めてだと〉〈怖くなんか、ないさ〉〈これから、なすべきことをやるんだ〉〈強い想いに満ち満ちた目が、こちらを見返していた〉──。

 それが余寿々絵だった。

関連記事

トピックス

安福久美子容疑者(69)の高場悟さんに対する”執着”が事件につながった(左:共同通信)
「『あまり外に出られない。ごめんね』と…」”普通の主婦”だった安福久美子容疑者の「26年間の隠伏での変化」、知人は「普段通りの生活が“透明人間”になる手段だったのか…」《名古屋主婦殺人》
NEWSポストセブン
兵庫県知事選挙が告示され、第一声を上げる政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志氏。2024年10月31日(時事通信フォト)
《名誉毀損で異例逮捕》NHK党・立花孝志容疑者は「NHKをぶっ壊す」で政界進出後、なぜ“デマゴーグ”となったのか?臨床心理士が分析
NEWSポストセブン
2025年九州場所
《デヴィ夫人はマス席だったが…》九州場所の向正面に「溜席の着物美人」が姿を見せる 四股名入りの「ジェラートピケ浴衣地ワンピース女性」も登場 チケット不足のなか15日間の観戦をどう続けるかが注目
NEWSポストセブン
「第44回全国豊かな海づくり大会」に出席された(2025年11月9日、撮影/JMPA)
《海づくり大会ご出席》皇后雅子さま、毎年恒例の“海”コーデ 今年はエメラルドブルーのセットアップをお召しに 白が爽やかさを演出し、装飾のブレードでメリハリをつける
NEWSポストセブン
昨年8月末にフジテレビを退社した元アナウンサーの渡邊渚さん
「今この瞬間を感じる」──PTSDを乗り越えた渡邊渚さんが綴る「ひたむきに刺し子」の効果
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《中村橋之助が婚約発表》三田寛子が元乃木坂46・能條愛未に伝えた「安心しなさい」の意味…夫・芝翫の不倫報道でも揺るがなかった“家族としての思い”
NEWSポストセブン
三重県を訪問された天皇皇后両陛下(2025年11月8日、撮影/JMPA)
「秋らしいブラウンコーデも素敵」皇后雅子さま、ワントーンコーデに取り入れたのは30年以上ご愛用の「フェラガモのバッグ」
NEWSポストセブン
八田容疑者の祖母がNEWSポストセブンの取材に応じた(『大分県別府市大学生死亡ひき逃げ事件早期解決を願う会』公式Xより)
《別府・ひき逃げ殺人》大分県警が八田與一容疑者を「海底ゴミ引き揚げ」 で“徹底捜査”か、漁港関係者が話す”手がかり発見の可能性”「過去に骨が見つかったのは1回」
愛子さま(撮影/JMPA)
愛子さま、母校の学園祭に“秋の休日スタイル”で参加 出店でカリカリチーズ棒を購入、ラップバトルもご観覧 リラックスされたご様子でリフレッシュタイムを満喫 
女性セブン
悠仁さま(撮影/JMPA)
悠仁さま、筑波大学の学園祭を満喫 ご学友と会場を回り、写真撮影の依頼にも快く応対 深い時間までファミレスでおしゃべりに興じ、自転車で颯爽と帰宅 
女性セブン
クマによる被害が相次いでいる(getty images/「クマダス」より)
「胃の内容物の多くは人肉だった」「(遺体に)餌として喰われた痕跡が確認」十和利山熊襲撃事件、人間の味を覚えた“複数”のツキノワグマが起こした惨劇《本州最悪の被害》
NEWSポストセブン
近年ゲッソリと痩せていた様子がパパラッチされていたジャスティン・ビーバー(Guerin Charles/ABACA/共同通信イメージズ)
《その服どこで買ったの?》衝撃チェンジ姿のジャスティン・ビーバー(31)が“眼球バキバキTシャツ”披露でファン困惑 裁判決着の前後で「ヒゲを剃る」発言も
NEWSポストセブン