努力型の永瀬王座
「将棋界には天才と秀才が多くいるんです。藤井二冠は大天才。天才の中でも上位。羽生善治九段も大天才。それに対して、自分は違う路線です。申し訳ないけれど、努力、努力、努力って感じ(笑い)。僕は漫画好きなんですが、主人公の才能がひょんなことから開花していく漫画はあまり好きではないですね(笑い)」
彼の実家は神奈川県のラーメン店。茎わかめラーメンが美味しいお店に行くと、彼の書いた色紙が貼ってあった。「根性」。
「将棋は、やったらやった分だけ強くなる、というのではないので(笑い)。でも、やらなきゃ強くならないです。自分は『継続は力なり』ではなく、『継続のみ』です。とりあえず継続する。ははははは」
ファンがつけたあだ名は「軍曹」。自分に厳しく、将棋に厳しく。「才」の字には縁がない人生という永瀬王座の才能論は興味深かった。
「才能は資源と考えればいいんです。なので、汲み出せる分量が決まっている。持っている人も、簡単には増やすことはできない。では、才能を使い切ったときにどうするか。僕の考えでは、他人から学ぶしかないんですよ。
その時に、教えていただくという謙虚な姿勢が大事です。ですから、将棋は、謙虚な人ほど強くなります。中には技術を盗む人もいるけれど、盗むより学ぶほうが面白いですよ。僕がやっているのは勝負事なので盗むに越したことはないんですけれど、学んだ上で盗む、という順番が大事です」
今、脂の乗った28歳。下から強い世代が追ってくる、上にはなかなか諦めない強い年上がいる。将棋界の“世代間抗争”をどう見ているのか。
「藤井聡太二冠が18歳。藤井さんの最年少棋士記録を抜いた伊藤匠四段が18歳。そういう方が今後の将棋を作っていくのは間違いない。なので、自分が将棋界にいるためには、彼らの将棋を学ぶことが必要だと思っています。上の世代の方は、これまでの将棋の礎を作った方なので、『棋譜並べ』という勉強をよくします。先輩のいい棋譜を並べると、筋トレのような脳のいい成分が出るような思いがします」