挙手の角度まで「校則」だと言われることも(イメージ)

挙手の角度まで「校則」だと言われることも(イメージ)

 変だったが言い出せなかったという副島さんはまだ20代。自身もまた、幼少期に同様の指導を受けて育っている。副島さんの勤務先にほど近い、同じ千葉県公立中の元教頭・佐藤勇二さん(仮名・60代)は、今更問題になるとは、と若干驚きつつも「慣習」について次のように述べる。

「校則はどの中学だって変わりません、公立ですから。肌着の件のような決まりは、個別の理由によって、その時々の先生方が決めた『方針』のようなもの。決まりではありませんが、要請によって『では、こうしていこう』といった具合で合意した、程度のもの」(佐藤さん)

 実際、佐藤さんがこれまで赴任した中学でも、こうした「方針」……というより「ローカルルール」が多く存在し、ルールが成立する瞬間もみてきたという。

「靴は全員同じで白い指定のズック(靴)、女生徒の靴下は白で一段折る、自転車に乗る場合『一文字』ハンドルでなくてはダメ……なんてのは変だなあと思いつつも、守るよう指導はしていましたね。今でも、中学生が校内で過ごす際は体操服に着替える、なんてもの(ルール)は残っているでしょう」(佐藤さん)

 文言で見ると不可思議なローカルルールだが、それぞれにそれなりの「制定された理由」もあると説明する。

「靴を自由にするとそこに貧富の差が出る、という親御さんからの申し入れですね。自転車は、カマキリ型ハンドルの自転車は素行不良の生徒が乗るもの、とされていたから。体操服に着替えるのは、毎日制服だと洗濯の手間などがあり、親御さんに負担がかかるから。靴下はなんだったかな、ちょっと思い出せない」(佐藤さん)

 一見するとまともにも思える理由が並ぶが、問題は佐藤さんが受けた「要請」の主が誰か、ということだ。

「それはもう親御さんに決まっています。あれはおかしいこれはおかしいと指摘され、話し合いでどうにかなるならいいです。でも、大人数で来られたり、ものすごく何度も何度も、根気強く要請されれば、学校側としても、特例という形で受け入れるしかないでしょう。我々が理解できないにしても、子供は地域で育てるべきだからということで、そうやって方針は決まっていきます」(佐藤さん)

 佐藤さんは言葉を慎重に選んでいるが、保護書からの強い要請、ほとんどクレームのような圧力があるから、不可思議なローカルルールが次々に成立していった、ということだろう。さらに悪いことに、そのような経緯で決定された方針やローカルルールは、時限立法的なものではない。この点については、佐藤さんも流石にバツが悪そうに続ける。

「いってしまえば、うるさい親御さんがいるから、その場凌ぎでルールを作る。その子達だけを特別扱いできないので、学校全体の方針になる。ルールを作った先生達は、ルールができた経緯なんて苦々しい話を後輩にせず、何年かすると移動しますよ。何年後かには、誰がなんのために作ったかわからないルールだけが残って、生徒も先生も困るんです。それがまさに今起こっているんですね。申し訳ない気持ちでいっぱいです」(佐藤さん)

 時代が変わり、教育が変わり、親や子供との関係性も変わっていく中で、過去の教師や親達が生み出した無責任な「置き土産」が今なお残滓として現場に影響を及ぼしているのなら、これほど馬鹿らしいことはない。

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