現在、桜井氏は「誰かの冤罪は私の冤罪」だと言って、再審支援に日々奔走中だ。
「無実の人を救わない方がおかしいし、戦後、日本では様々な冤罪が発生し、未だ再審請求が通らない事案も多い。その事実をどうすれば皆の我が事にできるのかと。その点、台湾は凄い。銀行強盗の容疑者が自殺した直後に真犯人が見つかった、たった1件の冤罪を契機に、警察・検察・裁判所一丸で司法制度改革に取り組んだ。
ところが日本では90年代に再審開始が立て続いて以降、証拠は隠す方向に舵を切った。これって、一体どういう差ですか? 何事も『見ぬ物清し』で収める風潮もある中、僕は誰もが同じ立場になり得ることだけは声に出していきたい。まだしばらくは死なないみたいですし(笑い)」
ちなみに題字は自身の字。「美しくなくても、伝わる字を書きなさいって、守る会の代表をされていた女優の北林谷栄さんがペン習字の本を差し入れてくれて。一時は暗号で日記を書くほど疑心暗鬼に陥り、汚い字をわざと書いた僕は、本当にいろんな方々に人にしていただいたんです」
そんな、深読みの誘惑を一蹴するほどストレートな言葉の主は〈不運は不幸ではない〉〈得れば失い、失えば得る〉等、一切嘘のない言葉で私たちを励ますのだ。
【プロフィール】
桜井昌司(さくらい・しょうじ)/1947年栃木県生まれ。県立竜ヶ崎第一高中退後、職を転々とし、1967年10月布川事件に関して故・杉山卓男氏と共に逮捕起訴され、1970年水戸地裁で無期懲役判決。1978年の上告棄却を受け千葉刑務所に収監される。1996年11月の仮釈放後も無実を訴え続け、2001年の第二次再審請求、2009年の再審開始確定を経て、2011年6月7日、無実が確定した。4月18日深夜には著者を10年以上に亘って追跡したNNNドキュメント「濡れ衣」が放送予定。160cm、50kg、B型。
構成/橋本紀子 撮影/国府田利光
※週刊ポスト2021年4月30日号