放出水を飲用にすることなどあり得ないが、あえてWHOの飲料水基準と比較してみたのは、もうひとつのイチャモン国家である中国の間違いを明らかにするためだ。海洋放出の方針を決めた後、麻生太郎・副総理は記者会見(4月13日)でWHO基準を引き合いに出して、「飲んでも何ということはないそうだ」と安全性を説明した。それに対して中国外務省の趙立堅・副報道局長が翌日の記者会見で、「飲めるというなら飲んでみてほしい」と噛みついた。放っておいてもいいのだが、そこは何でも言いすぎる癖がある麻生氏だけに、今度は16日の記者会見で、再び「飲めるんじゃないですか」と言い返した。
麻生氏が何か言うと日本人としてはヒヤヒヤしてしまうが、今回に限っては同氏が正しいことは説明した通りだ。正確には趙氏は、トリチウムの濃度そのものに疑問を呈したわけではなく、福島の汚染水は原発事故によって生じたものだから通常の廃水とは別物であり、だから日本政府はこれまで貯蔵タンクに密封していたのだ、という想定で非難していた。要するに「日本はトリチウム以外にまずいものを隠していて、それごと海洋放出するつもりだろう」というイチャモンだが、そこに関しては日本政府は放出水の組成などについて国際社会に情報公開することにしており、IAEA(国際原子力機関)やアメリカなどは、それならば問題ないという立場である。欧米各国も、これまで原発で生じたトリチウムは希釈して海洋や大気中に放出してきたのだから当然だ。
「何か隠しているのではないか」というのは、それこそ天ツバ発言であり、原発で生じた廃水について常に隠しているのは中国のほうなのだ。中国の原発でも、韓国同様にトリチウムを含む処理水は海洋や大気中に放出されているはずだが、ほとんど公表されていない。わずかな例としては、2002年に広東省・深センの大亜湾原発で42兆ベクレル放出した記録がある。これも単年としては日本の計画の倍近い放出量である。だから「事故で生じた水は別物」という苦しい論理を持ち出すしかなかったのだろうが、そこは日本が国際社会にきちんとチェックしてもらえばいいだけの話だ。
中国や韓国がイチャモンをつければつけるほど、国際社会には両国の非論理的、非科学的な姿が印象づけられ、むしろ日本の計画が理に適ったものであることが宣伝されるかもしれない。ならば日本は正しい発信を続けながら、イチャモンは言わせておけばいいだけだ。