河井案里被告の夫、河井克行被告も同じ選挙の公職選挙法違反で裁判が進行中(時事通信フォト)

河井案里被告の夫、河井克行被告も同じ選挙の公職選挙法違反で裁判が進行中(時事通信フォト)

 実際、広島県内の自民党関係者からは次のような嘆きが相次いでいた。

「『信頼回復のために』と応援のお願いに回るのが、河井さんから金をもらっていた県議なんですよ。支援者からも、あなたは辞めてないじゃない、あなたが信頼回復と言って誰が信用するの?とかなり手厳しい指摘を受けており、票読みでも相当に厳しい」(自民党関係者)

 まさに「誰も責任を取らない」ままに進んだ選挙戦。日本政治の悪い部分を凝縮したような光景だが、広島の実情を我々は笑えない。国民の信任を得て、責任を果たすはずの議員たちが、恥も外聞も捨てて選挙応援に奔走する彼の地の現実は、我々の住むエリアの明日の姿に違いない。再選挙を取材する大手紙記者は「国民の政治離れの一番大きな原因」が広島に現れていると筆者に話す。もちろんそれも大きな要因だろうが、先に触れたように、ジャーナリズムの衰退も関係しているように思える。

与党や野党ではない「第三」の選択肢

 買収資金の出所は今もわからず、河井夫妻の逮捕で幕引きされ、メディアやジャーナリストたちの追及も腰砕けになったまま。失望した国民が政治から離れていくのも当然なのだ。ネット上には、ジャーナリズムの弱体化を嘲笑うようなコメントが並んでいるが、この状態が続けば、社会に不利益が生じることは明らかだ。とある野党の本部スタッフを務める中西優子さん(仮名・50代)が説明する。

「少し前までは、右派に近しいメディアが報じたことに、左派メディアや私たちが反応し、一斉に反論をする、という流れは確かにありました。地方選挙でも同じようにしてやってきたし、SNS時代になると、エリア外の党員や協力者を呼び寄せて、できるだけ大々的に、世論を巻き込む形で運動をやってきました。でも最近は、いくらコロナの影響があるとはいえ、集まる人は少ない。反原発デモ、反差別デモもそうです。そうなると、メディアの取材も減る。呼んでも『人がいない』と来ないし、私たちのやる気もどんどん下がる。現場にきて、(デモなどで)声をあげる人は少なくなった。選挙前の運動も同じです」(中西さん)

 人員や取材経費の余裕がメディア側にあれば、今は人が少なくても将来につながる現場として取材が実行されることはある。だが、何事も無駄を省けだのスリム化だの言われる昨今では、未来へ向けた配慮を行き届かせるのは難しい。だが、そのコストパフォーマンスへの意識を反映させすぎると、ジャーナリズムそのものの衰退を招く。その結果、権力に対するチェック機能が弱まり、取り返しがつかない事態へと進む可能性もあるのだ。

 例えば、アメリカでは地方新聞などのローカルジャーナリズムが衰退の一途を辿り、議会や行政への監視体制が縮小されたり、中には全くジャーナリズムが機能していない空白地帯も発生している。その結果、何が起きているかというと、地方議会における汚職の横行である。ジャーナリズムが機能せず、市民が政治に関心を抱くきっかけ自体が減る。まさに日本でも同じことが起きているといえるのだが、ここを是正すべきとか、もっと強化しろという声はあまり聞こえてこない。

 もちろん、だから「野党に注目すべき」ということにはならない。野党においても、かつての失敗について責任を果たさないまま今なお「政治家風」を吹かせている人が多くいることを、国民はよく知っている。そうして「選択の余地なし」と感じた国民や有権者たちの一部は、既存の与党や野党ではない「第三」の選択肢を見出そうとするのだが、やはり一票を投じるに値する候補は少ない。そうなると実現不可能、荒唐無稽な公約を掲げる落下傘候補、ネットメディアで目立つことのほうが目的のような自称タレント候補、こうした人々に公認を出すよくわからない政党に票が流出し、収拾がつかない状態になっている。そして彼らに対して、既存の与野党以上に、国民に対する責任を果たす能力は期待できないと思いつつも、面白半分で彼らを支持する。

 大手メディアは今回の選挙戦を「最注目の広島再選挙」などと喧伝していたが、今回の投票率は前回より8%も低い21%程度と激減。野党候補者が自民候補者に4万票弱の差をつけて競り勝ったが、地元有権者の関心は恐ろしく低く、政治に対する期待感はゼロに近い。与党も野党も、それ以外の候補者も、責任を取る人は誰もいないのだから、政治離れというより国民が「見切った」ことによる「政治崩壊」が起きている、と言った方が正確なのだ。

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