自信がない中で始まった俳優人生も、半世紀近くになる。
「『健ちゃん、よくもったね』とはよく言われます。それだけ、相当酷かったんでしょうね。
結局のところ、芝居に対してどうしたいというのは実はあまりないんです。劇団の方とかが物凄く考えてやっています。僕はそこにあまり興味がない。芝居を作り込んだり、演技論を戦わせたりというのも、あまり好きじゃないんです。
そういう人間がなぜ続けられたのかというと──やはり食うため。根本はそこですね。
ですから、いい作品に出ることよりも、どうやって食べていくことができるだろう、みたいな。残念ながら、そこの方が大事でした。
笛を始めたキッカケも最初はそれです。このままでは食えないと思えて付加価値を考えていた時に何年も世界中の音楽を探して、ケーナと出会ったんです。
実は『望郷』で賞をいただいた後が、いちばん仕事がありませんでした。ですから、いい作品を残したって、食べていけなきゃしょうがないというのが、どこかにある。その辺は昔からあったみたいです。食べ続けていくにはどうしたらいいのかは、絶えず考えています」
【プロフィール】
春日太一(かすが・たいち)/1977年、東京都生まれ。主な著書に『天才 勝新太郎』『鬼才 五社英雄の生涯』(ともに文藝春秋刊)、『なぜ時代劇は滅びるのか』(新潮社刊)など。本連載をまとめた『すべての道は役者に通ず』(小学館)が発売中。
撮影/藤岡雅樹
※週刊ポスト2021年5月28日号