ああ

この日のエキストラは5人。全員が編集部員の設定。出番まで控室で待つ。台本はなく、口頭で演技を伝えられる

やってみてわかったエキストラの苦悩

 エキストラをするに当たって、「当日はパンツスーツでお願いします」と服装の指示があったけど、実際、編集部を見渡してもそんなカチッとした格好をしている人はいない。インタビューをするときはキチンとした服装をするけど、あとは好き放題。

 でもスタジオに入って納得したわ。テレビドラマは本当かどうかより、ひと目で本当らしく見えることが大事。ここは職場ですよ、と1秒でわかるのにジャケットは必須アイテムなのね。

 最初の出番は、私が後輩と立ち話をしていると、その前を芳根さんが走り去っていくというシーンだ。

「声は出さないでくださいね」と言われるまでもなく、横に立ったエキストラ氏(39才)が小道具の週刊誌を開いてパントマイムを始めてくれた。「オレ、ここ失敗しちゃったんだよな」と声にならない声を出して頭を掻けば、「どれどれ。やだ、信じられない」と私も週刊誌を見ながら顔を曇らせる。その横を芳根さんが速足で駆け抜ける。

「見てよ、この写真。すごくね?」と氏がぺージをツンツンすれば、「ひゃ~っ」と驚いて見せる。ヨシッ、調子が出てきたぞ!

 何度目かで、「今度は和気あいあいでやってみない?」と提案すると、即座に応じるエキストラ氏。週刊誌の誌面を指差しながら爆笑していたら、芳根さんがまた走り去っていった。

 次は、芳根さんが編集長に呼び止められて、刷り上がった出来たての週刊誌を渡され、何やら話しているシーン。私とエキストラ氏、エキストラ嬢(37才)がその背後のテーブルで仕事の打ち合わせをしている、という設定。これも何度か考えつく限りの無言劇を繰り返して、オッケーが出た。

 合間合間に彼らと言葉を交わした。

「エキストラ歴ですか? なんだかんだで11年目です」と言うエキストラ氏の本業はコンビニ経営者。「店は従業員に任せてしまえば時間はありますから、ま、趣味と実益ですね」と言う。

 一方、エキストラ嬢は会社員で、休みの日にエキストラをしているのだそう。「きれいだし、女優さんになりたいとは思わなかったの?」と聞くと、「いまは思っていないけど、昔はそんなことを考えていましたね」と恥ずかしそうな顔をする。エキストラの演技が認められて役がつくことは、ありそうでないのだとか。

「そういえば、昔の時代劇のエンドロールを見ていると、あら、この人、こんなとこにいるけど、その後出世したのね、ということなんてほとんどないよね」と私が言えば、2人とも大きく頷く。ちゃんとした本業があってエキストラはするものなのね。

 ふと編集部のセットを見ると、出番のない、ほかのエキストラ氏はこっくりこっくりと居眠りしている。「大丈夫ですよ。自分が必要とされると自然に目が覚めますから」と、11年選手のコンビニ経営者は言う。「女優は待つのが仕事」と聞いたことがあるけど、エキストラもそこは同じなのね。私は12時までだったけど、彼らはこの日、8時から20時までの拘束だったそう。

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