芸能

『影武者』で不遇から復活した黒澤明 4億円の城セットを燃やした意地

黒澤明にも、“もう終わった”と囁かれた時期があった(Getty Images)

黒澤明にも、“もう終わった”と囁かれた時期があった(Getty Images)

 不屈の精神で危機を乗り越える姿に、人々は熱狂する。昭和の時代、映画界において大復活を遂げた傑物がいた。世界の映画人に多大な影響を与え、「世界のクロサワ」と称された黒澤明にも、“もう終わった”と囁かれた時期があったのだ。

 作品へのこだわりから制作費が巨額になり、多額の借金を抱えた黒澤は、『赤ひげ』(1965年)の後、米国のエンバシー・ピクチャーズとの共同制作に乗り出したが、すったもんだの挙げ句、頓挫してしまう。多くの黒澤作品にスクリプター、編集などで参加してきた野上照代氏が振り返る。

「リアリティを追求する黒澤監督の仕事のやり方が米国側のスタッフに理解されなかった。その後、20世紀フォックスとの共同で『トラ・トラ・トラ!』(1967年)の日本パートを監督することになりましたが、表向きは健康上の理由ということで降ろされてしまった」

 1970年に『どですかでん』を監督したが、ヒットせず、さらなる借金を抱えることに。その翌年、黒澤は自宅の浴室で首と手首を切り、自殺未遂騒ぎを起こした。テレビに押され、映画そのものが斜陽の時代を迎えていた。だが、黒澤は『影武者』(1980年)で再びその名を世界に轟かせる。

「不遇が続いて、近くで見ていて気の毒なくらいでした。そんななか海外に行く機会があって、黒澤に影響を受けたジョージ・ルーカスやフランシス・コッポラたちと親交を深めることができた。そして彼らが米国の会社につないでくれたことで『影武者』を撮ることになったんです。

 カンヌ国際映画祭にも一緒に行きましたが、パルム・ドール(最高賞)を獲ってホッとした様子でした」(同前)

『影武者』に続いて制作され、アカデミー賞監督賞にノミネートされた『乱』(1985年)では、こんなエピソードがあった。

「プロデューサーには予算やスケジュールなどで歯止めをかける役割もあるけど、黒澤監督は言うことを聞きません(笑い)。クライマックスで、4億円かけたお城のセットを燃やすシーンを撮り終えた時は、珍しく『良かったね~。帰って飲むよ』とご機嫌だったのを覚えています」(同前)

※週刊ポスト2021年6月4日号

関連記事

トピックス

東京都慰霊堂を初めて訪問された天皇皇后両陛下と長女・愛子さま(2025年10月23日、撮影/JMPA)
《母娘の追悼ファッション》皇后雅子さまは“縦ライン”を意識したコーデ、愛子さまは丸みのあるアイテムでフェミニンに
NEWSポストセブン
2023年に結婚を発表したきゃりーぱみゅぱみゅと葉山奨之
「傍聴席にピンク髪に“だる着”姿で現れて…」きゃりーぱみゅぱみゅ(32)が法廷で見せていた“ファッションモンスター”としての気遣い
NEWSポストセブン
渡邊渚さんの最新インタビュー
渡邊渚さんが綴る「PTSDになった後に気づいたワーク・ライフ・バランスの大切さ」「トップの人間が価値観を他者に押しつけないで…」
NEWSポストセブン
女優の趣里とBE:FIRSTのメンバーRYOKI(右/インスタグラムより)
《趣里が待つ自宅に帰れない…》三山凌輝が「ネトフリ」出演で超大物らと長期ロケ「なぜこんなにいい役を?」の声も温かい眼差しで見守る水谷豊
NEWSポストセブン
ルーヴル美術館での世紀の強奪事件は瞬く間に世界を駆け巡った(Facebook、HPより)
《顔を隠した窃盗団4人組》ルーブル美術館から総額155億円を盗んだ“緊迫の4分間”と路上に転がっていた“1354個のダイヤ輝く王冠”、地元紙は「アルセーヌ・ルパンに触発されたのだろう」
NEWSポストセブン
活動休止状態が続いている米倉涼子
《自己肯定感が低いタイプ》米倉涼子、周囲が案じていた“イメージと異なる素顔”…「自分を追い込みすぎてしまう」
NEWSポストセブン
松田聖子のモノマネ第一人者・Seiko
《ステージ4の大腸がんで余命3か月宣告》松田聖子のものまねタレント・Seikoが明かした“がん治療の苦しみ”と“生きる希望” 感激した本家からの「言葉」
NEWSポストセブン
“ムッシュ”こと坂井宏行さんにインタビュー(時事通信フォト)
《僕が店を辞めたいわけじゃない》『料理の鉄人』フレンチの坂井宏行が明かした人気レストラン「ラ・ロシェル南青山」の閉店理由、12月末に26年の歴史に幕
NEWSポストセブン
森下千里衆院議員(共同通信社)
《四つん這いで腰を反らす女豹ポーズに定評》元グラドル・森下千里氏「政治家になりたいなんて聞いたことがない」実親も驚いた大胆転身エピソード【初の政務三役就任】
NEWSポストセブン
ナイフで切りつけられて亡くなったウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(Instagramより)
《19年ぶりに“死刑復活”の兆し》「突然ナイフを取り出し、背後から喉元を複数回刺した」米・戦火から逃れたウクライナ女性(23)刺殺事件、トランプ大統領が極刑求める
NEWSポストセブン
『酒のツマミになる話』に出演する大悟(時事通信フォト)
『酒のツマミになる話』が急遽差し替え、千鳥・大悟の“ハロウィンコスプレ”にフジ幹部が「局の事情を鑑みて…」《放送直前に混乱》
NEWSポストセブン
『週刊文春』によって密会が報じられた、バレーボール男子日本代表・高橋藍と人気セクシー女優・河北彩伽(左/時事通信フォト、右/インスタグラムより)
「近いところから話が漏れたんじゃ…」バレー男子・高橋藍「本命交際」報道で本人が気にする“ほかの女性”との密会写真
NEWSポストセブン