国内

東京五輪1964の革新 選手村での食事提供で外食産業が大きく発展

1964年完成の東急東横線渋谷駅駅舎と建設中の首都高3号線は10月1日に約1kmのみ開通

1964年完成の東急東横線渋谷駅駅舎と建設中の首都高3号線は10月1日に約1kmのみ開通(写真提供/渋谷区)

 新型コロナウイルスの感染拡大によって開催が1年延期された東京五輪2020。そして、1年経ってもなおコロナ禍は収束せず、開催を不安視する声も多い。いわば、誰もが喜ぶべき大会ではなくなってしまった東京五輪2020。しかし、1964年に開催された東京五輪を振り返れば、日本の経済成長のきっかけとなった大会として、歴史的にも重要な存在となっている。

 1964年には、東海道新幹線や東京モノレール、地下鉄日比谷線、首都高速道路などの交通網が次々開通。東京の都市機能が飛躍的に発展した。日本武道館や代々木体育館などの五輪施設だけでなく、ホテルニューオータニ、東京プリンスホテルなどの大型ホテルも1964年に完成した。

あらゆる業界で進化・改革が始まった

「変わったのは、インフラや街の様子だけではありません。多くの業界が進化しました」

 と話すのは、日本近現代史に詳しい産業能率大学・自由が丘産能短大兼任教員でジャーナリストの嶋田淑之さん。

「当時、世界の人々が一堂に会する五輪を開催するために、日本に決定的に欠けていたことが4つありました。それは、【1】選手村での飲食供給能力、【2】多言語対応能力、【3】コンピューター活用能力、【4】公的な警備能力です」(嶋田さん・以下同)

「いちばんの課題は【1】でした。当時の飲食業界には、レシピやテクニックを他人に公開しない職人気質があり、それが選手村の食事提供でネックとなりました」

 仕入れや調理を各々で行うのが当時の料理人の慣例。そうした中、選手および関係者1万人分を毎日3食、しかも世界の食文化に対応しながら用意するのは至難の業だった。

「そこで、選手村『富士食堂』の料理長を任された、帝国ホテル新館料理長(当時)の村上信夫さんは、冷凍食品に着目しました。そして、市場価格に影響しないよう、数か月前から、冷凍・解凍技術の研究・改良、冷凍食品を活用した仕入れを進めました。

 並行して、全国から料理人たちを選抜し、バックヤードにサプライセンターを設置、そこで基本的な調理を行う方式(現在のセントラルキッチン方式)を確立しました。

 分業体制を敷き、レシピやノウハウを全員で共有することによって、均質で高水準の料理を大量かつ短時間で作ることが可能になったのです」

 その結果「五輪史上、最もおいしい食事」と、各国から絶賛される。また、各チームの料理人が地元に戻ることで、世界の料理レシピと調理技術が日本各地に広まった。その後、冷凍食品とセントラルキッチン方式がファミレス業界を創出するなど、五輪は外食産業の大きな分岐点となった。

【2】の分野を後押ししたのは、トイレや非常口などがひと目でわかる「ピクトグラム(絵文字)」の登場だ。

【3】の分野で目を引いたのは、選手たちがゴールをすると順位とタイムが速報で流れるシステムの開発だ。

関連キーワード

関連記事

トピックス

交際が報じられた赤西仁と広瀬アリス
《赤西仁と広瀬アリスの海外デートを目撃》黒木メイサと5年間暮らした「ハワイ」で過ごす2人の“本気度”
NEWSポストセブン
世界選手権東京大会を観戦される佳子さまと悠仁さま(2025年9月16日、写真/時事通信フォト)
《世界陸上観戦でもご着用》佳子さま、お気に入りの水玉ワンピースの着回し術 青ジャケットとの合わせも定番
NEWSポストセブン
秋場所
「こんなことは初めてです…」秋場所の西花道に「溜席の着物美人」が登場! 薄手の着物になった理由は厳しい暑さと本人が明かす「汗が止まりませんでした」
NEWSポストセブン
身長145cmと小柄ながら圧倒的な存在感を放つ岸みゆ
【身長145cmのグラビアスター】#ババババンビ・岸みゆ「白黒プレゼントページでデビュー」から「ファースト写真集重版」までの成功物語
NEWSポストセブン
『徹子の部屋』に月そ出演した藤井風(右・Xより)
《急接近》黒柳徹子が歌手・藤井風を招待した“行きつけ高級イタリアン”「40年交際したフランス人ピアニストとの共通点」
NEWSポストセブン
和紙で作られたイヤリングをお召しに(2025年9月14日、撮影/JMPA)
《スカートは9万9000円》佳子さま、セットアップをバラした見事な“着回しコーデ” 2日連続で2000円台の地元産イヤリングもお召しに 
NEWSポストセブン
高校時代の青木被告(集合写真)
《長野立てこもり4人殺害事件初公判》「部屋に盗聴器が仕掛けられ、いつでも悪口が聞こえてくる……」被告が語っていた事件前の“妄想”と父親の“悔恨”
NEWSポストセブン
世界的アスリートを狙った強盗事件が相次いでいる(時事通信フォト)
《イチロー氏も自宅侵入被害、弓子夫人が危機一髪》妻の真美子さんを強盗から守りたい…「自宅で撮った写真」に見える大谷翔平の“徹底的な”SNS危機管理と自宅警備体制
NEWSポストセブン
鳥取県を訪問された佳子さま(2025年9月13日、撮影/JMPA)
佳子さま、鳥取県ご訪問でピンクコーデをご披露 2000円の「七宝焼イヤリング」からうかがえる“お気持ち”
NEWSポストセブン
長崎県へ訪問された天皇ご一家(2025年9月12日、撮影/JMPA)
《長崎ご訪問》雅子さまと愛子さまの“母娘リンクコーデ” パイピングジャケットやペールブルーのセットアップに共通点もおふたりが見せた着こなしの“違い”
NEWSポストセブン
ウクライナ出身の女性イリーナ・ザルツカさん(23)がナイフで切りつけられて亡くなった(Instagramより)
《監視カメラが捉えた残忍な犯行》「刺された後、手で顔を覆い倒れた」戦火から逃れたウクライナ女性(23)米・無差別刺殺事件、トランプ大統領は「死刑以外の選択肢はない」
NEWSポストセブン
国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン