芸能

自分を語らない『大豆田とわ子』 このドラマはいったい何を描いているのか

番組公式HPより

番組公式HPより

 もしドラマに「エンゲージメント」という指標があるなら、間違いなくこの作品は高い数字を記録するだろう。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が考察した。

 * * *
『大豆田とわ子と三人の元夫』(フジテレビ系火曜午後9時)は、記事で紹介するにはなかなかやっかいなドラマです。さらっと概要を書くのも難しい。なぜなら、脚本を書いている坂元裕二氏が語るように、独特のセリフで形作られたドラマ世界だから。

「日常のダイアログはできるだけ本当のことを言わない、気持ちを届けようとしない、核心には触れない、周辺のことばっかり喋っている」(『脚本家 坂元裕二』)。これ、日本で放送されている一般的なテレビドラマのセリフとはまるで正反対ではないでしょうか?

 しかし、このドラマは退屈さをみじんも感じさせないのだから不思議です。登場人物が想いを直接語らず「迷彩でカムフラージュされた曖昧な状態」(坂元氏)が続く中で、小さなきっかけ・モノから決定的な想いが流れ出す瞬間がある。「えっ、この人こんなことを感じていたの」という発見の瞬間もこのドラマの醍醐味です。

 主な登場人物は……3度の離婚歴がある住宅建築会社社長・大豆田とわ子(松たか子)と、離婚した元夫の3人--レストランオーナーでモテ男の田中八作(松田龍平)、ファッションカメラマンで器の小さい佐藤鹿太郎(角田晃広)、大豆田の会社の顧問弁護士で理屈っぽい中村慎森(岡田将生)。

 それぞれ仕事もキャラクターも違い、好みも生き方も少しずつ異なる。個々人で気になるポイントもこだわりも微妙にズレる。そうした人々が交差する場がカフェやリビングの空間。派手なストーリーもドンデン返しも予定調和もない。しかし、考えてみれば日常とは断片と断片をつなぎ合わせたり編み上げたりしてでき上がっているものです。

 では、ドラマの軸となる主人公・とわ子はどんな人物なのでしょうか? とわ子は目の前に発生する出来事に一つ一つきちんと反応しながら生きていて、伊藤沙莉さんのナレーションがとわ子の心情やシチュエーションを部分的に説明してくれます。その分、とわ子が感情を語ったり外に強く出すようなドラスティックなシーンはなく、「この人を愛してる」とか「私はこう生きたいんだ」といった明解な主張も見えない。

 自分を語らない--主人公の感情が直接的に「描かれない」という点こそ、このドラマの特徴と言ってもいいでしょう。

 一方、3人の元夫たちはそれぞれ誰かを求めて拒絶されたり、心が揺れたり、何かに依存したりしている。

 とわ子を軸に、その周囲で右往左往する3人の元夫の対比が鮮やかです。ふと、「都市は中心をもっている。だが、その中心は空虚である」という批評家ロラン・バルトの言葉を思い出しました。バルトは東京を訪ね皇居の森を見てこう言いましたが、さしづめこのドラマも「中空の構造」と言えるでしょう。『大豆田とわ子と三人の元夫』という不思議なタイトルも、とわ子という中軸に3人の団子三兄弟が貫かれている様子を想像させます。

関連記事

トピックス

STAP細胞騒動から10年
【全文公開】STAP細胞騒動の小保方晴子さん、昨年ひそかに結婚していた お相手は同い年の「最大の理解者」
女性セブン
水原一平容疑者は現在どこにいるのだろうか(時事通信フォト)
大谷翔平に“口裏合わせ”懇願で水原一平容疑者への同情論は消滅 それでもくすぶるネットの「大谷批判」の根拠
NEWSポストセブン
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
大久保佳代子 都内一等地に1億5000万円近くのマンション購入、同居相手は誰か 本人は「50才になってからモテてる」と実感
女性セブン
宗田理先生
《『ぼくらの七日間戦争』宗田理さん95歳死去》10日前、最期のインタビューで語っていたこと「戦争反対」の信念
NEWSポストセブン
焼損遺体遺棄を受けて、栃木県警の捜査一課が捜査を進めている
「両手には結束バンド、顔には粘着テープが……」「電波も届かない山奥」栃木県・全身焼損死体遺棄 第一発見者は「マネキンのようなものが燃えている」
NEWSポストセブン
ドジャース・大谷翔平選手、元通訳の水原一平容疑者
《真美子さんを守る》水原一平氏の“最後の悪あがき”を拒否した大谷翔平 直前に見せていた「ホテルでの覚悟溢れる行動」
NEWSポストセブン
ムキムキボディを披露した藤澤五月(Xより)
《ムキムキ筋肉美に思わぬ誤算》グラビア依頼殺到のロコ・ソラーレ藤澤五月選手「すべてお断り」の決断背景
NEWSポストセブン
(写真/時事通信フォト)
大谷翔平はプライベートな通信記録まで捜査当局に調べられたか 水原一平容疑者の“あまりにも罪深い”裏切り行為
NEWSポストセブン
逮捕された十枝内容疑者
《青森県七戸町で死体遺棄》愛車は「赤いチェイサー」逮捕の運送会社代表、親戚で愛人関係にある女性らと元従業員を……近隣住民が感じた「殺意」
NEWSポストセブン
大谷翔平を待ち受ける試練(Getty Images)
【全文公開】大谷翔平、ハワイで計画する25億円リゾート別荘は“規格外” 不動産売買を目的とした会社「デコピン社」の役員欄には真美子さんの名前なし
女性セブン
眞子さんと小室氏の今後は(写真は3月、22時を回る頃の2人)
小室圭さん・眞子さん夫妻、新居は“1LDK・40平米”の慎ましさ かつて暮らした秋篠宮邸との激しいギャップ「周囲に相談して決めたとは思えない」の声
女性セブン
いなば食品の社長(時事通信フォト)
いなば食品の入社辞退者が明かした「お詫びの品」はツナ缶 会社は「ボロ家ハラスメント」報道に反論 “給料3万減った”は「事実誤認」 
NEWSポストセブン