条件付きの承認
バイオジェン社のアルフレッド・サンドロックは、先行者デールの治験の失敗を注意深く見ていた。
新しいアミロイドPETという技術を駆使して、確実にアルツハイマー病の患者を治験に入れること。さらに、「バピネツマブ」が副作用をおそれ、最高の投与量を2ミリグラムとしていたのを、「アデュカヌマブ」では10ミリグラムとしていた。この高用量の群が効いたのである。
「バイオジェンは、デールの治験から多くを学び、今日がある。デールとは結局一度も一緒に仕事をすることはなかったが、同僚のように感じていた。今でも、かつてデールと一緒に仕事をした仲間とデールのことを話すことがある」(アルフレッド・サンドロック)
FDAはアデュカヌマブを承認したが、条件付きの承認だ。
確かにアミロイドβを減らしたことは「フェーズ3」の1500人規模によるふたつの治験で証明されたが、認知機能の効果については証明されていない。だからアデュカヌマブを市場に出すのと並行してもう1本これを証明する治験をすべし、という結論だった。
そしてその「フェーズ4」の結果、そのことが証明できなければ、「承認を取り消す可能性もある」とFDAの発表にはある。
しかし、この承認によって患者はもう待つ必要がない。新しい選択肢を手に入れることができたのだ。
「アルツハイマー征服」という頂への挑戦は今後も続いていく。
【プロフィール】
下山進(しもやま・すすむ)/ノンフィクション作家。「アデュカヌマブ」の承認申請にいたるこの30年のアルツハイマー病研究のドラマを日米欧の研究の当事者に取材した『アルツハイマー征服』を1月に出版した。他の著書に『2050年のメディア』『勝負の分かれ目』など。
※週刊ポスト2021年7月2日号