「本当のターゲットは菅総理」
安倍氏が直接批判しなくても、保守派の論客が「安倍イズム」から外れた政治家に批判を浴びせて排除しようとする。
この現象を保守の憲政史家で作家の倉山満氏が次のように分析する。
「とくに反左翼の一部の層は、LGBTや夫婦別姓、脱原発など左翼が好みそうな政策を支持する者を“敵”とみなして攻撃する行動原理がある。そうした層が崇める象徴的な存在が安倍さんで、支持者たちはやがて反安倍であること自体を批判の対象にするようになった。彼らは安倍さんが政治活動を再開すると、再び活動を活発化させている」
よく似ているのが米国のトランプ前大統領と支持者の関係だ。支持者たちは「大統領選に不正があった」というトランプ氏の主張を今も信じ、共和党内の反トランプ派を批判。共和党会議議長でトランプ氏の弾劾決議に賛成票を投じたリズ・チェイニー下院議員は批判を浴びて議長を解任されるなど、共和党内は「トランプ支持派」と「反トランプ派」の対立が深刻化している。
安倍支持派の復権で自民党内もそうなっている。
稲田氏が火をつけた夫婦別姓問題では、党内に推進派の議連と反対派の議連が発足して対立し、CO2削減でも河野氏や小泉氏の路線を支持する「再生可能エネルギー普及拡大議連」と安倍氏らの「原発リプレース議連」がぶつかっている。
「自民党内の夫婦別姓議論を解禁し、LGBT法案など女性重視を掲げてそれまでの安倍路線を転換したのは菅総理だ。カーボンニュートラル政策でも菅さんは河野、小泉両氏に再エネを推進させることで後継者として育成しようとしている。
安倍応援団の本当の批判のターゲットは菅さんで、安倍イズムを壊して左傾化していると見ている。安倍氏がわざと菅首相に近い河野、小泉を除いた4人の名前を総理・総裁候補に挙げたのは、菅自民党がこのまま“安倍離れ”を進めるなら、保守地盤を動かして首相のクビをすげ替えるという恫喝です」(菅側近議員)
米共和党が“トランプ党”と化したように、自民党も“アベ党”に変身するのか。
※週刊ポスト2021年7月2日号