彼もまた、近年目覚ましい活躍を見せる俳優の一人。子役からキャリアをスタートさせたこともあり、既に人生の半分の時間を俳優として歩んできた。それがここ数年、特に“飛躍の年”が続いている印象だ。映画『君の膵臓をたべたい』で主演を務めて以降は作品のメインキャストの一人に名を連ねることが一気に増え、昨年は初の単独主演作『とんかつDJアゲ太郎』を含めた4本もの主演映画が世に出た。それも、アップテンポなコメディからシリアスなヒューマンドラマまで、参加作品のジャンルだけでなく演じるキャラクターの振れ幅も大きく、挑戦的な活動が続いている。
一方、本作で北村が演じる役どころは、主役でありながらこれまでの役柄の中で最も“普通”と言える。吉沢が演じるマイキーや山田の演じるドラケンは圧倒的な強さを誇り、鈴木演じるキヨマサはタケミチにとって天敵であり極悪人。いずれも強い個性が際立つキャラクターで、冴えないタケミチはその佇まいからして負けている。しかし、過去に戻りそんな自分を変えていこうとするのがタケミチという男だ。個性の薄いキャラクターに彩りを与えるために工夫された北村の表情や声から、彼の実力が見えてくる。
劇中での北村は、過去と現在という異なる時間軸での違いはもちろん、気の置けない仲間たちや敵対する人物、恋人の前とでそれぞれ表情を変えている。喜びや悲しみ、怒り、焦りなど、シーンに応じてくるくると変幻自在だ。また、タケミチという不完全な人物を表現するために、表情だけでなく声も普段の北村自身のものより高く、演じるうえでタケミチという人物を冷静に捉え、丁寧に役に落とし込んでいるように思うのだ。北村本人も原作ファンであり、実写化されるならタケミチ役を演じたいと願っていたようだが、その想いがしっかりと役に反映されていたように感じた。
これまで、タケミチのような弱々しい役や三枚目の役のほか、映画『アンダードッグ』のように硬派な役も全うしてきた北村。本作で北村がタケミチ役に起用されたのは、見た目が役に合っていること以上に、本作の強力な座組の中心に立てるだけの実績が彼自身にあったことが大きな理由だろう。実写化が成功したいま、俳優としてさらに一段キャリアを積み、若手俳優陣の中でも一歩先を進む北村。今後若手のトップとして活躍していく姿が楽しみだ。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。