企画力にすぐれ、プロデューサー的な役割も担っていた阿久はピンク・レディー、沢田研二、桜田淳子らに詞を提供。同時期に酒井さんはキャンディーズ、郷ひろみ、山口百恵らを手がけていた。となれば、タッグは組みづらい。だが、この二人が互いの戦略を意識しながら英知の限りを尽くしたからこそ、歌謡曲の黄金時代が到来したのである。プライベートでは何度も旅に出かけたほど交流のあった二人だが、酒井さんは阿久さんについて、こう語っていた。
「阿久さんとの仕事ではお互いにテーマをぶつけ合って本当に楽しかった。不思議な会話もいっぱいしたし、まさに怪物だと思いましたね。阿久さんの晩年にも一緒にアルバムを作る企画があったのですが、実現に至らなかったのが残念です」
おそらく今頃は筒美さんを交えたヒットメーカー3人で作品づくりを始めているに違いない。合掌。
【プロフィール】
酒井政利(さかい・まさとし)/1935年生まれ、和歌山県出身。日本コロムビアとCBS・ソニーでプロデューサーとして活躍。1996年、酒井プロデュースオフィスを設立し、文化・芸術・メディアの分野でも手腕を発揮。2020年、文化功労者として顕彰。
取材・文/濱口英樹
※週刊ポスト2021年8月13日号