「ノーマスク」を強要はできない
もともと、精神科医の間ではコロナ禍によって国内で1万人以上の自殺者が増えると予想されていた。しかし、東京大学などのグループが出した昨年3月から今年5月までの試算では、約3200人となっている。
「景気の悪さや、ステイホームによって日の光に当たらないこと、ソーシャルディスタンスによって会話が減少することなどが原因で、ぼくら精神科医の間では、1万人くらい自殺者が激増すると推測されていたのです。しかしふたを開けてみたら、思ったより増えていなかった。テレワークの普及により直接的なコミュニケーションが減り、その結果、ストレスが緩和した人が増えたと考えられます」(和田さん)
マスクもまた、一部の人たちにとっては「生きやすくなった」と感じさせてくれるアイテムだという。
「日本は先進国の中で、抗不安薬をはじめとする精神安定剤の処方量がダントツで多い。つけることによって他人と一定の距離感を保てるマスクは精神安定剤のような役割を担っている一面もあるため、ノーマスクが当たり前の世の中になったからといって、全員にマスクを外せと強要はできません」(片田さん)
化粧品会社の福美人の調査によると、86%以上の人がマスクの着用に「慣れた」と回答しており、そのうち約36%は「つけていないときの方が違和感がある」と答えている。
「長引くコロナ禍で、服を着ることとマスク着用は同等レベルに習慣化しました。外すと不快感を覚える現象が起きるのは不思議ではない。抵抗がある人にノーマスクを押しつけるのは、イスラム教の女性に、頭などを覆うヒジャブを外せと要求することに近いのではないでしょうか。
ワクチン接種が普及しても、マスクをつけていない自分の顔を知っている知人が少ない若者世代を中心に、ノーマスクはあまり進まないかもしれませんね」(和田さん)
すっぴんをごまかせる、愛想笑いをしなくて済む、自分の気持ちを読み取られずに済む──コロナ禍は新たな日本人の本音を浮き彫りにしたのかもしれない。
※女性セブン2021年8月12日号