ベンゾジアゼピン系の薬には筋肉のこわばりを弛緩させる作用があり、高齢者の場合は足元がふらつき、転倒して骨折するリスクもある。
「長期間にわたって服用していると、認知症の発症率が上がることもわかっています。せん妄状態になり、無意識のうちに電話したり食事をするなど、問題行動を起こすこともあります」(西野さん)
その副作用の大きさから、海外ではベンゾジアゼピン系の睡眠薬の使用を控える動きが広まっているが、日本では変わらず処方されている。その理由を薬剤師の廣瀬安國さんはこう話す。
「不安を鎮める効果もあるため、うつ病で眠れないという人に処方されやすい。依存のリスクはありますが、眠れないつらさをがまんするより、薬をのんで寝た方がいい場合もあります。薬には必ずメリットと副作用がつきものなので、そのバランスを考えて処方されています」
ベンゾジアゼピン系の副作用を軽くする目的で開発されたのが、「非ベンゾジアゼピン系」の睡眠薬だ。まったく別物のように思えるが、実際はそうではない。
「薬が効く仕組みはベンゾジアゼピン系とほぼ同じ。脳の活動を低下させるものです。副作用の強さは改善されているものの、『ノックダウン型』の薬であることには違いないため、転倒や意識障害などのリスクはあります」(西野さん)
ノックダウン型の睡眠薬は、よほどの事情がない限り服用は避けたい。
体の負担は少ないが万能とはいえない
不眠の原因を根本的に解決し、自然な眠りを招くために開発されたのが「非ノックダウン型」の睡眠薬だ。
代表的なのは「メラトニン受容体作動薬」と呼ばれるもので、「睡眠ホルモン」といわれる「メラトニン」と類似の働きをする。成人の場合、副作用や依存の心配もほとんどなく、安心して服用できる。
「メラトニンは、もともと人間に備わっているホルモンです。しかし、加齢とともに分泌量が減少するため、高齢者は睡眠リズムが乱れたり、夜に眠れなくなりやすい。『メラトニン受容体作動薬』は体内でメラトニンと同じように働き、自然な眠りに導く薬で、特に高齢者の不眠に効果があるとされています」(西野さん)
ただし、体への負担が減った分、「ノックダウン型」と比べると効果は弱い。
「依存性の面では安心できますが、逆にいえば“切れ味がない”ともいえる。重度の睡眠障害の場合、この薬では眠れないという人もいます」(坪田さん)
さらに、いくら安全とはいえ、副作用のない薬はない。不安への指摘もある。
「子供がメラトニン受容体作動薬を服用すると、初潮が遅くなることがわかっています。子供や妊婦に対する安全性は確立されていません」(西野さん)