かつて被災した場所が再び…
この8月、全国に大雨特別警報や緊急安全確保、記録的短時間大雨情報、土砂災害警戒情報などがたびたび出された。「これまでに経験したことがない危険が迫っています」とテレビからアナウンサーが繰り返し呼びかけた。そうした緊急放送では、かつて土砂災害や河川の氾濫などのニュースで登場した地名もたびたび登場している。
たとえば「広島市安佐北区」と「広島市安佐南区」。2014年8月の大雨で土砂災害に見舞われた土地だ。あるいは「熊本県人吉市」。ここを走る球磨川は2020年7月の豪雨で氾濫して70人近い死者・行方不明者を出した。今回も氾濫危険水位まで上昇するなど、今年に入ってからもたびたび危険が訪れている。
筆者は7月に日本民間放送連盟賞の九州・沖縄地区でテレビ報道番組部門の審査員を務めた。この地区の民放局で「豪雨災害」をテーマにしたドキュメンタリー番組がいくつか目につき、地元にとってそれだけ切実な問題なのだと感じていた。
例示してみると、熊本朝日放送『守りたい 守れない 〜気候危機のただ中で〜』、大分放送『川と生きる。復興への光 〜水害と向き合う温泉街〜』、テレビ熊本『ばかやろうと言わせてくれ 〜球磨川と生きる 老舗酒蔵の300日〜』などだ。
豪雨災害に遭いながらもたくましく生きる人々の姿を描いたドキュメンタリー。印象深かったのがテレビ熊本の『ばかやろうと言わせてくれ 〜球磨川と生きる 老舗酒蔵の300日〜』。球磨川の氾濫で営んでいた酒蔵が壊滅的な打撃を受け、ゼロから再建していく日々を追っていた。涙もろく感情むき出しに奮闘する経営者の姿が胸を打った。
これらの番組には、元々住んでいた土地にこだわり続けて仕事や生活を立て直そうとする人、元いた土地を離れて新たな土地で新たな仕事や生活を探そうとする人、その両方が登場していた。土地を離れるのかどうか。土地との向き合い方がテーマになっていた。ある住民は「子どものため」を考えると豪雨災害に繰り返し見舞われる土地にはもう住むことはできないと話し、違う土地へ去って行った。