ライフ

羽生善治50歳「将棋の定跡を覚えること自体がトレーニングです」

羽生善治が記憶力や体力、そしてモチベーションをどう維持しているのかを語る

羽生善治が記憶力や体力、そしてモチベーションをどう維持しているのかを語る

「50歳」という年齢を迎えてもなお、第一線で戦う気力を失わない羽生善治。〈楽観はしない。ましてや、悲観もしない。ひたすら平常心で〉──かつて著書『決断力』の中で、「勝つ秘訣」についてそう語った天才棋士は、自身の変化をどう受け止め、前に進む気力を維持しているのか。将棋観戦記者の大川慎太郎氏がレポートする。(文中一部敬称略)

 * * *
 第一人者として将棋界に長らく君臨してきた羽生善治も50歳を超えた。デビューから35年が過ぎ、羽生自身とそれを取り巻く環境は大きく変わっている。現代社会のスピード化と多様化は留まることを知らず、将棋界もその例に漏れない。

 そんな中、羽生は何を考え、これからをどう生きようとしているのか。今回は、記憶力や体力、そしてモチベーションをどう維持しているのかなど、より一般的なテーマについて羽生に尋ねた。50歳という年齢を感じさせないレジェンドはよく笑い、朗らかに答えた。その言葉の数々は、我々が今後をよりよく生きるためのヒントに満ちている。

(インタビュー記事前編となる、8月11日配信【羽生善治50歳「昭和のアナログから今のAIまで体験できたのは幸運」】、および8月12日配信【50歳の羽生善治「大事なことは自己評価と周囲の評価の一致」】も参照)

 棋士は記憶力に優れている。自分が過去に指した将棋はかなりの数を覚えているのは間違いない。だが最近、若手棋士から「覚える量が多すぎて大変」「記憶違いで負けた」という声を聞くようになった。現在はAI(人工知能)を使って序盤戦を研究するのが主流で、大事な変化手順とその評価値を大量に暗記しなくてはいけない。記憶の量が勝敗に直結することもあるので皆、必死である。

 物覚えがいいとされる若者ですら嘆くような状況だが、ベテランの羽生はどうなのだろう。

「トレーニングを続ければ記憶力は衰えにくいので、年齢は関係ないと思っています。絶対に覚えなくてはいけないことは忘れないものです。人間は必要がないことって覚えないんですよね。例えば調べればすぐにわかることなどがそうです。それになんでも覚えていればいいわけでもないし、忘れたほうがいいこともたくさんあります」

 どんなトレーニングをしているのか羽生に尋ねると、「将棋の定跡を覚えること自体がトレーニングの一つです。その作業を続けていれば、記憶力が悪くなることはありません」ときっぱりと語った。

 いま、若手棋士が突き当たっている難題についてはどんな考えを持っているのか。羽生もAIを使って研究しているが。

「その問題は何が難しいかって、似て非なる形を覚えることが難しいんです。例えば将棋は歩の位置が一つ違うだけで、結論が大きく変わることがある。全然違う形を覚えるのはそれほどでもないですが、類似形を記憶するのは簡単ではない。全体像をきちんと捉えて理解しておく必要があります。また視覚にだけ頼るのは危険なので、手を動かすとか、話すとか、五感をきちんと使うことが身につくコツです」

関連記事

トピックス

世界中でセレブら感度の高い人たちに流行中のアスレジャーファッション(左・日本のアスレジャーブランド「RUELLE」のInstagramより、右・Backgrid/アフロ)
《広瀬すずもピッタリスパッツを普段着で…》「カタチが見える服」と賛否両論の“アスレジャー”が日本でも流行の兆し、専門家は「新しいラグジュアリーという捉え方も」と解説
NEWSポストセブン
浅香さんの自宅から姿を消した内縁の夫・世志凡太氏
《長女が追悼コメント》「父と過ごした日々を誇りに…」老衰で死去の世志凡太さん(享年91)、同居するスリランカ人が自宅で発見
取締役の辞任を発表したフジ・メディア・ホールディングスとフジテレビ(共同通信社)
《辞任したフジ女性役員に「不適切経費問題」を直撃》社員からは疑問の声が噴出、フジは「ガバナンスの強化を図ってまいります」と回答
NEWSポストセブン
子宮体がんだったことを明かしたタレントの山瀬まみ
《“もう言葉を話すことはない”と医師が宣告》山瀬まみ「子宮体がん」「脳梗塞」からの復帰を支えた俳優・中上雅巳との夫婦同伴姿
NEWSポストセブン
愛子さま(写真/共同通信社)
《12月1日がお誕生日》愛子さま、愛に包まれた24年 お宮参り、運動会、木登り、演奏会、運動会…これまでの歩み 
女性セブン
海外セレブの間では「アスレジャー
というファッションジャンルが流行(画像は日本のアスレジャーブランド、RUELLEのInstagramより)
《ぴったりレギンスで街歩き》外国人旅行者の“アスレジャー”ファッションに注意喚起〈多くの国では日常着として定着しているが、日本はそうではない〉
NEWSポストセブン
虐待があった田川市・松原保育園
《保育士10人が幼児を虐待》「麗奈は家で毎日泣いてた。追い詰められて…」逮捕された女性保育士(25)の夫が訴えた“園の職場環境”「ベテランがみんな辞めて頼れる人がおらんくなった」【福岡県田川市】
NEWSポストセブン
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
【複雑極まりない事情】元・貴景勝の湊川親方が常盤山部屋を継承へ 「複数の裏方が別の部屋へ移る」のはなぜ? 力士・スタッフに複数のルーツが混在…出羽海一門による裏方囲い込み説も
NEWSポストセブン
アスレジャースタイルで渋谷を歩く女性に街頭インタビュー(左はGettyImages、右はインタビューに応じた現役女子大生のユウコさん提供)
「同級生に笑われたこともある」現役女子大生(19)が「全身レギンス姿」で大学に通う理由…「海外ではだらしないとされる体型でも隠すことはない」日本に「アスレジャー」は定着するのか【海外で議論も】
NEWSポストセブン
中山美穂さんが亡くなってから1周忌が経とうとしている
《逝去から1年…いまだに叶わない墓参り》中山美穂さんが苦手にしていた意外な仕事「収録後に泣いて落ち込んでいました…」元事務所社長が明かした素顔
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサー、ボニー・ブルー(Instagramより)(Instagramより)
《俺のカラダにサインして!》お騒がせ金髪美女インフルエンサー(26)のバスが若い男性グループから襲撃被害、本人不在でも“警備員追加”の大混乱に
NEWSポストセブン
(左から)中畑清氏、江本孟紀氏、達川光男氏の人気座談会(撮影/山崎力夫)
【江本孟紀・中畑清・達川光男座談会1】阪神・日本シリーズ敗退の原因を分析 「2戦目の先発起用が勝敗を分けた」 中畑氏は絶不調だった大山悠輔に厳しい一言
週刊ポスト