3期目の続投が有力視される(Avalon/時事通信フォト)
庶民の支持を得て続投狙う習近平
中国共産党といえば、政権奪取後に資産家や地主を打倒し、私有財産保有を禁止。社会主義経済を確立したという歴史がある。ゆえに、政治体制が先祖返りして、財産を巻き上げられるというリスクを富裕層は常々意識している。だからこそ多くの富裕層が海外に財産を移し、子どもに海外の国籍を取得させ……とリスク回避に努めてきた。今回の共同富裕発言で「ついに恐れていた事態がやって来た!」との反応が広がるのも不思議ではない。
中国共産党中央財政弁公室の韓文秀(ハン・ウェンシュー)は26日、「『殺富済貧』(金持ちを殺して貧民を救う)ではない、寄付控除などの制度を用意するとの意味だ」と説明している。わざわざ言及しなければならないほど、懸念が広がっていることの現れと言える。
というのも、中国ではなにかというと政治運動的な急激な動きへと発展してしまう。最近では学習塾禁止令が好例だ。予備校やオンライン教育サービスは非営利機関へと転換するよう命じられた。既に破綻した企業も出ており、数十万人の雇用が失われるとも見られている。学習塾で働いていた人には大打撃だが、一般庶民からは「学習塾は子どもに良い暮らしをさせたいという親の気持ちにつけこんで、高い授業料を奪ってきた。自業自得だ」と支持する声も少なくない。
格差を是正するならば、自発的な寄付に期待するよりも前に、もっと確実な制度的な手当が必要だろう。中国では未だに相続税、不動産資産に課税する物権税(固定資産税)が整備されていない。つまり、二次分配がまだまだ不十分なのだ。これらの税金を導入すると、不動産価格に大きな影響を与え中国経済を不安定化させる懸念があるほか、不動産資産を持つ中産層から猛反発を買う恐れもある。格差是正には最も効果的であっても、なかなか導入できないゆえんだ。
一方、富裕層叩きならば、実際の効果はともかく一般庶民からの支持は得られる。大多数の人が賛同するならば、一部の人々に凄まじい痛みを与えても許容される。これもまた一種のポピュリズムと言えるだろう。三次分配も富裕層にとっては恐怖だが、一般庶民から支持されることは間違いない。習近平主席の任期は来年秋の党大会まで。慣例ならば2期10年を務めて引退となるところだが、絶大な権力を手にし、しかも後継者が見当たらない今は続投する可能性が高い。庶民の習近平人気の高まりは続投の後押しともなりそうだ。
【高口康太】
ジャーナリスト。翻訳家。千葉大学人文社会科学研究科(博士課程)単位取得退学。中国の政治、社会、文化など幅広い分野で取材を行う。独自の切り口から中国・新興国を論じるニュースサイト「KINBRICKS NOW」を運営。著書に『現代中国経営者列伝』(星海社新書)など。