芸能

銀座の異端のクラブ「姫」を率いたカリスマ 直木賞作家・山口洋子の生涯

異端であった山口洋子の人生とは?(写真はイメージ)

異端であった山口洋子の生涯を振り返る(写真はイメージ)

 日本一の繁華街として知られる銀座。日が落ちれば街中には“夜の蝶”が漂うが、銀座の旧来のスタイルに“風穴”を開けた異端のクラブがあった。それが、後の直木賞作家・山口洋子の「姫」だ。ノンフィクション作家の細田昌志氏が、山口の生涯について綴る。

 * * *
 佐久間良子や山城新伍と同期生で東映ニューフェイス4期生だった山口洋子が、女優を廃業して、銀座7丁目の木造ビルの二階に五坪の小さな店をオープンしたのは1950年代後半のことである。店の名前を「姫」としたのは、安藤組組長、安藤昇の愛人としての呼称に由来する。伝説のクラブ「姫」は、懲役に行った情夫の帰りを待つように誕生した。

 老舗の「ルパン」から後発の「エスポワール」「おそめ」に至るまで、この時代の銀座の人気店には、政治家、財界人、文士が列をなすように集った。当時のホステスに要求されたのは教養である。そこで大卒の才媛や良家の未亡人がことごとく採用された。ホステスの1日が日経新聞に目を通すことから始まったという逸話は、あながち作り話ではない。

 新参の山口洋子はその慣習をせせら笑うように「若くて美しければ、男の方から話を合わせてくるはず」と二十歳そこそこの小娘ばかりを集めた。読みは的中する。これまで「銀座は敷居が高い」と忌避していた顧客がこぞって「姫」にやって来たのだ。歌手、俳優、作家、画家、写真家、新聞記者、テレビマン……。

「今日は持ち金がなくて」と尻込みする若い男に、「安心して。あそこの呉服屋の社長にツケといてやったから」というようなことも頻繁にあったらしい。店は銀座内で転居を繰り返すたびに「クラブ」としての体裁を設えていった。

 評判を聞きつけて銀座と無縁だった新たな客層が現われた。プロ野球選手である。大金を稼ぎながら安酒をあおっていた彼らが「姫」に吸い寄せられたのは必然だった。金田正一、杉浦忠、野村克也、張本勲……美女揃いで敷居が低いと来たら行かない理由はなかった。程なくマダムは恋に落ちる。相手は中日ドラゴンズのエース、権藤博の説が専らである。東京遠征のたびに必ず訪れる権藤の姿を見てある客は「姫、姫、権藤、姫、権藤」と冷やかした。

三足の草鞋

 作詞を始めたのは1967年のことだ。友人の神楽坂浮子に『銀座化粧』を提供すると思いのほか好評で、いくつかの作品をしたためた。すると1970年『噂の女』(内山田洋とクールファイブ)が大ヒット。余勢を駆って無名の下積み歌手、三谷謙をプロデュースする。

 平尾昌晃とのコンビで書いた三谷の再デビュー曲こそ『よこはま・たそがれ』。すなわち、五木ひろしのことだ。1973年には『夜空』で日本レコード大賞を受賞。人気作詞家の仲間入りをはたした。

関連記事

トピックス

真美子さんの帰国予定は(時事通信フォト)
《年末か来春か…大谷翔平の帰国タイミング予測》真美子さんを日本で待つ「大切な存在」、WBCで久々の帰省の可能性も 
NEWSポストセブン
シェントーン寺院を訪問された天皇皇后両陛下の長女・愛子さま(2025年11月21日、撮影/横田紋子)
《ラオスご訪問で“お似合い”と絶賛の声》「すてきで何回もみちゃう」愛子さま、メンズライクなパンツスーツから一転 “定番色”ピンクの民族衣装をお召しに
NEWSポストセブン
”クマ研究の権威”である坪田敏男教授がインタビューに答えた
ことし“冬眠しないクマ”は増えるのか? 熊研究の権威・坪田敏男教授が語る“リアルなクマ分析”「エサが足りずイライラ状態になっている」
NEWSポストセブン
“ポケットイン”で話題になった劉勁松アジア局長(時事通信フォト)
“両手ポケットイン”中国外交官が「ニコニコ笑顔」で「握手のため自ら手を差し伸べた」“意外な相手”とは【日中局長会議の動画がアジアで波紋】
NEWSポストセブン
11月10日、金屏風の前で婚約会見を行った歌舞伎俳優の中村橋之助と元乃木坂46で女優の能條愛未
《中村橋之助&能條愛未が歌舞伎界で12年9か月ぶりの金屏風会見》三田寛子、藤原紀香、前田愛…一家を支える完璧で最強な“梨園の妻”たち
女性セブン
土曜プレミアムで放送される映画『テルマエ・ロマエ』
《一連の騒動の影響は?》フジテレビ特番枠『土曜プレミアム』に異変 かつての映画枠『ゴールデン洋画劇場』に回帰か、それとも苦渋の選択か 
NEWSポストセブン
インドネシア人のレインハルト・シナガ受刑者(グレーター・マンチェスター警察HPより)
「2年間で136人の被害者」「犯行中の映像が3TB押収」イギリス史上最悪の“レイプ犯”、 地獄の刑務所生活で暴力に遭い「本国送還」求める【殺人以外で異例の“終身刑”】
NEWSポストセブン
“マエケン”こと前田健太投手(Instagramより)
“関東球団は諦めた”去就が注目される前田健太投手が“心変わり”か…元女子アナ妻との「家族愛」と「活躍の機会」の狭間で
NEWSポストセブン
ラオスを公式訪問されている天皇皇后両陛下の長女・愛子さまラオス訪問(2025年11月18日、撮影/横田紋子)
《何もかもが美しく素晴らしい》愛子さま、ラオスでの晩餐会で魅せた着物姿に上がる絶賛の声 「菊」「橘」など縁起の良い柄で示された“親善”のお気持ち
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信フォト)
オフ突入の大谷翔平、怒涛の分刻みCM撮影ラッシュ 持ち時間は1社4時間から2時間に短縮でもスポンサーを感激させる強いこだわり 年末年始は“極秘帰国計画”か 
女性セブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン