さて。今日も競馬が終わった。私はボロボロの文庫本片手にベランダに出て九月の空を見上げる。『九月の空』。8月17日に亡くなった高橋三千綱さんの芥川賞受賞作である。高校大学と、私は三千綱さんの小説、エッセイをむさぼり読んだ。
三千綱さんは競馬にも造詣が深く、特にJRAへの悪態は軽妙にして深遠。胸のすく文章でこちらの溜飲を下げてくれたものだ。「競馬とは悔恨のゲームである。それを愉しむことを潔しとする者だけが幸せになれる」との名言も。酒とギャンブルと小説を愛した無頼派に合掌。
【プロフィール】
須藤靖貴(すどう・やすたか)/1999年、小説新潮長編新人賞を受賞して作家デビュー。調教助手を主人公にした『リボンステークス』の他、アメリカンフットボール、相撲、マラソンなど主にスポーツ小説を中心に発表してきた。「JRA重賞年鑑」にも毎年執筆。
※週刊ポスト2021年10月1日号