安全装置は年々、充実してきている(イメージ、時事通信フォト)

安全装置は年々、充実してきている(イメージ、時事通信フォト)

 よりにもよって運転中にくも膜下出血なんて。今年1月にも脳卒中を起こした73歳の法人タクシー運転手が渋谷区笹塚で横断歩道に突っ込み6人が死傷した。このケースも事前の健康診断は異常なし。それはそうだ。義務付けられた健康診断とはいえ人間ドック、ましてや脳ドックほどの項目はない。タクシーに限らず、今後は職業ドライバーの健康と安全のために脳ドックまで義務付ける必要があるかもしれない。実際、一般社団法人健康マネジメント協会では職業ドライバーにも脳ドックを推奨している。

「それもありがたいですけど、自動車技術がもっと進むといいと思いますよ。安全装備に助けられることって多いですから」

  ヒューマンエラーは防ぎようがない。突然死を伴うような病気、まして寿命など誰しもわかりっこない。だからこその技術革新によるサポートが必要ということか。トヨタのジャパンタクシーなどはトヨタセーフティセンスという予防安全パッケージが備わっている。個人タクシーで昔から主流のクラウンなどの大型セダンや最近タクシーで多くなったプリウスにも備えつけられている(他社、他ブランドにも同様の技術はあるがタクシーのほとんどがトヨタ車なので割愛)。一般ユーザーでも「うちの車にもついてるよ」という人は多いだろう。

「これにも(トヨタセーフティセンス)ついてます。大きな事故ならわかりませんが、日常の運転では助けられてますね。でも事故のクラウンにもついていたと聞いてますよ」

 運転手さんのセダンにも備えつけられている。もちろんまだ技術的に絶対、ではない。

「だからこそ、さらにアップデートしたらいいなと思います。天下のトヨタですから、やってくれるでしょう」

 技術革新に期待だが、コストの問題で買い替えが進まず、法人タクシーを中心に予防安全パッケージのない旧型もいまだに多い。長引くコロナ禍、タクシー会社も経営は厳しい。

「毎日仕事で乗ってる人なら、絶対事故なんか起こさない、なんて思わないです。病気もそうですが、もらい事故だってあるし、車もバイクも自転車もひどい運転の人がいます。歩行者だってとんでもない横断とかします。同業(のタクシー)でもひどいドライバーはいます。過信はしません」

 自分が上手いと思っている、自分は大丈夫と思っているドライバーほどやっかいなものはない。日ごろの運転で、そんなことはない、事故は身近と多くの心あるプロドライバーは知っている。事故を起こしたタクシー運転手もそうだったに違いない。それでも災難は降り掛かってくる。まさかある日突然、運転中に自分が突然死するなんて!

 筆者は以前『立川ホテル殺害事件に同業女性が慟哭「名前が出てしまうんですね」』でも言及したが、被害者はもちろん予期せぬ過失による加害者の名前、ましてや顔写真をテレビの全国放送で流す必要が、それを望む視聴者がどれほどいるのだろうか。群馬の女子高生死体遺棄事件でも当初、被害者の女子高生の名前や顔写真が公開されたが、生活のために風俗で働き殺された女性や異常な夫婦に騙されて殺された未成年の女子高生、そして今回の突然死による事故で加害者となってしまったタクシー運転手の名前や顔を日本中の晒し者にする必要があるのだろうか。

 技術革新同様、社会も確実にアップデートしている。昭和のワイドショーのような「罪もない被害者や事故当事者の顔を見たがる」一般国民は減っているように思う。実際、今回もSNSを中心に実名顔写真公開に対して批難の声は多い。

「タクシーに巻き込まれて亡くなられた被害者の方もいらっしゃるので言いづらいですが、あのような事故で実名顔写真はきついです」

 業務中の突然死で亡くなられた交通事故加害者、本当に顔写真を晒す必要があったのだろうか。それは「知る権利」と呼べるものなのだろうか。

【プロフィール】
日野百草(ひの・ひゃくそう)/本名:上崎洋一。1972年千葉県野田市生まれ。日本ペンクラブ会員。出版社を経てフリーランス。全国俳誌協会賞、日本詩歌句随筆評論協会賞奨励賞(評論部門)受賞。『誰も書けなかったパチンコ20兆円の闇』(宝島社・共著)、『ルポ 京アニを燃やした男』(第三書館)。近著『評伝 赤城さかえ 楸邨、波郷、兜太から愛された魂の俳人』(コールサック社)。

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