健康診断で頭部MRIまで行うことは滅多にない(イメージ、時事通信フォト)

健康診断で頭部MRIまで行うことは滅多にない(イメージ、時事通信フォト)

「私も加害者になるかもしれません。健康診断も受けていますが、それで今回のような事故を防げるかどうか」

 先にも触れたが、未破裂脳動脈瘤は誰の脳にも存在する可能性がある。国立循環器病研究センターによれば全人口の3~5%の脳には脳動脈瘤という血管のコブができている可能性があるという。それが自然と消えるか、破裂するかはわからない。頭部MRIで発見できるとされているが、単なる健康診断(基本、タクシー運転手は年に2回)では、頭部MRIなんてまず受けない。人間ドックのオプション検査で脳ドックがあれば受けられるが、それでも絶対安心というわけではない。

「事故の人、私と同い年くらいなんですよ。タクシー業界、とくに個タクは60代なんて普通です」

 東京タクシーセンター(2020年12月発表)によれば、「特別区武三」と呼ばれる東京23区と武蔵野市および三鷹市の個人タクシー運転手の平均年齢は64.2歳。いっぽう、イメージに反して法人タクシー運転手の平均年齢は新卒採用や女性採用の強化で下がり続けている。しかし個人タクシー(事業者乗務証交付者)の平均年齢は上昇中だ。今回の事故を起こした運転手の方も、筆者とお話しいただいている運転手の方も一般的には高齢者だが、個人タクシーとしては平均的な年齢ということになる。

「個人タクシーの中には定年がない人もいるんです。100歳だって仕事できます。私はだめですけどね」

 個人タクシーは死ぬまでできる、と言われたのは昔の話。2002年2月以降に参入した個人タクシーは75歳までと定年が決められている。しかしそれ以前の運転手には定年がない(ただし条件あり)。2019年に神奈川県川崎市で会社員をはねてしまった運転手はなんと91歳! 運転手の方がおっしゃるとおり、「60代なんて普通」の業界だ。

「やっぱり年取るとリスクは高くなりますからね。でも仕事しなくちゃ食べていけませんし、いまは年寄りも働かなきゃいけないですから」

自動車技術がもっと進むといいと思う。安全装備に助けられることは多い

 政府は一億総活躍社会などと年金額を減らし続けてきたが、ついには厚生年金分を削って国民年金(基礎年金)に割り当てるとした。いよいよ正社員の老後も安泰ではなくなった。一般国民の老後は「等しく下流」に押しやられようとしている。還暦過ぎたプロ経営者とやらが「45歳定年」と中高年の正社員はいらない趣旨の本音を吐いたが、それが経団連に受け入れられているということは、生まれながらの資産家という親ガチャ引き当て組か運良く一生遊べる大金を掴んだ者以外は死ぬまで働けということだ。筆者の既発表ルポ『「一生働くとは思ってなかった」と70代のUber配達員は言った』や『炎天下にマスク姿で道路に立つ70代の2号警備員が抱える不安』は決して他人ごとではない。残念ながら大半の一般国民は、歳を重ねるほどにリスクばかりの年齢不相応な苦しい労働を強いられるだろう。それが一億総活躍社会という国の望みだ。

「それでも個人タクシーは食えるだけマシだと思っています。できる限り安全に、気をつけるだけ気をつけて、あとは運ですね」

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