ライフ

末期がん患者と医師が“理想の最期”を語り合う「人生会議」に密着

終末期の治療について決めていく「人生会議」(右が里枝子医師)

終末期の治療について決めていく「人生会議」(右が岩井里枝子医師)

 新型コロナによって、日本の医療現場が大きな影響を受けている。終末期のがん患者を受け入れる緩和ケア病棟が、新型コロナ病棟に転用され、行き場を失った患者も少なくない。そこで、いま注目されているのが「在宅医療」だ。

『週刊ポストGOLD 理想の最期』では、ジャーナリスト・岩澤倫彦氏が最期まで自宅で過ごす患者と家族、それを支える医療者の現場をレポートしている。

 * * *
「おじいちゃん私だよ! 元気にしている?」── タブレットの画面から呼びかける孫娘に、男性患者は右手を少しだけ上げて応えた。その顔には戸惑いと嬉しさが入り混じる。

 進行がんの悪化で男性が入院した病棟は、新型コロナの感染防止のために面会謝絶だった。今回、病院の配慮でタブレット越しに家族と会うことができたが、やはり直接面会するのとは違う。

 新型コロナ禍になって以降、がん終末期の患者が家族や親しい知人と面会できず、病院で孤独に人生の終わりを迎えている。

 去年、日本人の死因トップは、「がん」で約37万8000人。2位は「心疾患」約20万人、3位「老衰」約13万人と続く。一方、新型コロナによる死亡は3466人だ。

 新型コロナ以降、入院中の面会謝絶が原因で、在宅医療を選ぶ人が増えている。

自宅でなら「食べられる」

“食止め(しょくどめ)”という医療者が使っている言葉がある。患者の食事を中止する措置のことだ。 福島県いわき市で、在宅療養の患者を訪問している岩井淳一医師(山内クリニック)は、こう語る。

「病院では、進行がんの患者などが吐血した場合、“食止め”して点滴に切り替えるのがセオリーです。しかし、在宅医療では本人が希望すれば、リスクを納得してもらった上で食事を継続することもあります。好きなものを食べることは喜びになり、元気につながる。甘いものが好きならアイスクリームでもいいんです」

 岩井医師の専門は救急医療で、現在も週2回、いわき市の救命救急センターでの勤務を続けている。その2つの異なる分野を経験したことで、治療後の患者のことを考えるようになったという。

「高齢者の末期がんで在宅療養を選ぶ人が増えていますが、急変すると家族が動転して救急搬送されるケースが度々あります。その時は、救命できても、元の元気な身体に戻ることはまずありません。

 また、患者が食事をとれなくなると、家族が点滴を希望することが多いです。しかし、食事を受け付けないのは老衰と考えるべき。無理に点滴をすると、むくみや痰を引き起こして、かえって患者は苦しくなります」

 そこで、岩井医師が勤務するクリニックでは、訪問診療を開始する前に、患者と家族、ケアマネジャーを交えて「人生会議」をしている。これは、患者自身が意思表示できなくなった時を想定して、「死に方」を家族や医師を交えて話し合い、共有するものだ。人生会議の一部始終を取材した。

関連キーワード

関連記事

トピックス

クマ対策には様々な制約も(時事通信フォト)
《クマ対策に出動しても「撃てない」自衛隊》唯一の可能性は凶暴化&大量出没した際の“超法規的措置”としての防御出動 「警察官がライフルで駆除」も始動へ
週刊ポスト
滋賀県草津市で開催された全国障害者スポーツ大会を訪れた秋篠宮家の次女・佳子さま(共同通信社)
《“透け感ワンピース”は6万9300円》佳子さま着用のミントグリーンの1着に注目集まる 識者は「皇室にコーディネーターのような存在がいるかどうかは分かりません」と解説
NEWSポストセブン
天皇皇后両陛下主催の「茶会」に愛子さまと佳子さまも出席された(2025年11月4日、時事通信フォト)
《同系色で再び“仲良し”コーデ》愛子さまはピンクで優しい印象に 佳子さまはコーラルオレンジで華やかさを演出 
NEWSポストセブン
「高市外交」の舞台裏での仕掛けを紐解く(時事通信フォト)
《台湾代表との会談写真をSNSにアップ》高市早苗首相が仕掛けた中国・習近平主席のメンツを潰す“奇襲攻撃”の裏側 「台湾有事を看過するつもりはない」の姿勢を示す
週刊ポスト
クマ捕獲用の箱わなを扱う自衛隊員の様子(陸上自衛隊秋田駐屯地提供)
クマ対策で出動も「発砲できない」自衛隊 法的制約のほか「訓練していない」「装備がない」という実情 遭遇したら「クマ撃退スプレーか伏せてかわすくらい」
週刊ポスト
真美子さんのバッグに付けられていたマスコットが話題に(左・中央/時事通信フォト、右・Instagramより)
《大谷翔平の隣で真美子さんが“推し活”か》バッグにぶら下がっていたのは「BTS・Vの大きなぬいぐるみ」か…夫は「3か月前にツーショット」
NEWSポストセブン
文京区湯島のマッサージ店で12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕された(左・HPより)
《本物の“カサイ”学ばせます》12歳タイ少女を働かせた疑いで経営者が逮捕、湯島・違法マッサージ店の“実態”「(客は)40、50代くらいが多かった」「床にマットレス直置き」
NEWSポストセブン
山本由伸選手とモデルのNiki(共同通信/Instagramより)
《いきなりテキーラ》サンタコスにバニーガール…イケイケ“港区女子”Nikiが直近で明かしていた恋愛観「成果が伴っている人がいい」【ドジャース・山本由伸と交際継続か】
NEWSポストセブン
3年間に合計約818万円のガソリン代を支出していた平口洋・法務大臣(写真/共同通信社)
高市内閣の法務大臣・平口洋氏が政治資金から3年間で“地球34周分のガソリン代”支出、平口事務所は「適正に処理しています」
週刊ポスト
Mrs. GREEN APPLEのギター・若井滉斗とNiziUのNINAが熱愛関係であることが報じられた(Xより/時事通信フォト)
《ミセス事務所がグラドルとの二股を否定》NiziU・NINAがミセス・若井の高級マンションへ“足取り軽く”消えた夜の一部始終、各社取材班が集結した裏に「関係者らのNINAへの心配」
NEWSポストセブン
山本由伸(右)の隣を歩く"新恋人”のNiki(TikTokより)
《チラ映り》ドジャース・山本由伸は“大親友”の元カレ…Niki「実直な男性に惹かれるように」直近で起きていた恋愛観の変化【交際継続か】
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
「週刊ポスト」本日発売! 内部証言で判明した高市vs習近平「台湾有事」攻防ほか
NEWSポストセブン