芸能

藤岡弘、インタビュー 『仮面ライダー』主人公・本郷猛の「変身」と「変心」

藤岡弘、が当時を振り返る(撮影/内海裕之)

藤岡弘、が1972年当時を振り返る(撮影/内海裕之)

“国民的ヒーロー”の人気と影響力が大きくなるほど、演じる者の苦悩もまた、大きくなっていった──。『仮面ライダー』主演の藤岡弘、が当時を振り返り、“ヒーローのあり方”を語る。

 * * *
 1972年当時、僕は本郷猛の死に様ばかり考えていたんです。本郷猛の最期を、どう迎えるべきなのか。

 というのも、僕は役者として不器用なタイプ。心身ともに、その役になりきることでしか演じられず、その過程において演じる者の現在・過去・未来を考えてしまう。本郷猛の場合、現在と過去は放送回を重ねるごとに自然と明らかになっていった。じゃあ、その先の未来は──?

 そこで僕は、ある想いにたどり着きました。本郷猛は十分に、悪の組織・ショッカーと戦った。与えられた使命を果たしてきた。そんな本郷に残された戦いは自己犠牲を貫き、己の命を次の世代に繋いでいくようなものではないのか。その覚悟も固めていました。

 しかし、僕の想像は原作者の石ノ森章太郎先生の一言で木っ端微塵になった。

 あれは石ノ森先生が初めて監督を務めた『危うしライダー! イソギンジャガーの地獄罠』(1972年11月4日放送/第84話)のロケでした。撮影の合間に先生と千葉県・鴨川の砂浜を歩いていたとき、僕はさり気なく「仮面ライダーは、いつ死ぬのですか」と訊いたんです。そうしたら、先生がニコッと笑みを浮かべ、「死ぬ? 藤岡君、仮面ライダーは死んじゃダメなんだ。永遠に死なない」といわれて。

何があっても生き抜く覚悟

 ショックでした。“死なない”ということは、つまり“死ねない”と気づいたからです。本郷猛の正義を背負い、これからも永遠に戦い続けなければいけない。正直、それは死ぬことよりも辛いのではないか、と思いましたね。

 でも、先生の「仮面ライダーは永遠に死なない」の言葉を受け、自分なりに子供の夢と希望を奪い去らないためにも、やはりライダーは死んではいけない、そうでなければヒーローではないと解釈し、“死にゆく覚悟”から、何があっても“生き抜く覚悟”を胸に秘めるようになったんです。

 ありがたいことに、「3世代で仮面ライダーを観ています」など、今でもいろんな方々から声をかけていただきます。

 30代の男性は「父親に正義の意味がわからなければ、本郷猛の生き様を見よ、と教わりました。だから、自分の息子にも、本郷猛の戦いを見なさい、と一緒に仮面ライダーを観ています」といってくれてね。その父親の横に、5歳くらいの男の子がはにかむように立っていて「本郷さん、握手してください」って、おずおずと小さな手を差し出してくれたんですよ。僕はしゃがみ込み、小さな手をしっかり握り締めました。

 そのとき、ふと石ノ森先生の「仮面ライダーは永遠に死なない」の言葉が蘇り、改めて真意を理解することができましたよね。死ぬ覚悟より、ひたすら生き抜く覚悟のほうが尊く重たい歴史を紡げるものなんです。

 そういう心構えの積み重ねが結果的に『仮面ライダー』の放送開始50周年という偉業に繋がっているのではないでしょうか。

関連キーワード

関連記事

トピックス

ゆっくりとベビーカーを押す小室さん(2025年5月)
《小室圭さんの赤ちゃん片手抱っこが話題》眞子さんとの第1子は“生後3か月未満”か 生育環境で身についたイクメンの極意「できるほうがやればいい」
NEWSポストセブン
『国宝』に出演する横浜流星(左)と吉沢亮
大ヒット映画『国宝』、劇中の濃密な描写は実在する? 隠し子、名跡継承、借金…もっと面白く楽しむための歌舞伎“元ネタ”事件簿
週刊ポスト
山本アナ
「一石を投じたな…」参政党の“日本人ファースト”に対するTBS・山本恵里伽アナの発言はなぜ炎上したのか【フィフィ氏が指摘】
NEWSポストセブン
中核派の“ジャンヌ・ダルク”とも言われるニノミヤさん(仮称)の壮絶な半生を取材した
【独占インタビュー】お嬢様学校出身、同性愛、整形400万円…過激デモに出没する中核派“謎の美女”ニノミヤさん(21)が明かす半生「若い女性を虐げる社会を変えるには政治しかない」
NEWSポストセブン
今年の夏ドラマは嵐のメンバーの主演作が揃っている
《嵐の夏がやってきた!》相葉雅紀、櫻井翔、松本潤の主演ドラマがスタート ラストスパートと言わんばかりに精力的に活動する嵐のメンバーたち、後輩との絡みも積極的に
女性セブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
思い切って日傘を導入したのは成功だった(写真提供/イメージマート)
《関東地方で梅雨明け》日傘&ハンディファンデビューする中年男性たち デパートの日傘売り場では「同い年くらいの男性も何人かいて、お互いに\\\\\\\\\\\\\\\"こいつも買うのか\\\\\\\\\\\\\\\"という雰囲気だった」
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン