ライフ

都下のインドカレー屋で働くネパール人男性と「親ガチャ」について話してみた

インド料理店で働くネパール人は多い(イメージ、時事通信フォト)

インド料理店で働くネパール人は多い(イメージ、時事通信フォト)

 芥川龍之介『河童』では、自分でこの世に生まれるかどうかを選ぶ河童の国でのお産の様子が描かれる。そこで「僕は生れたくはありません」と答える腹の中の子は、父親の病気だけでも大変なのにと理由を述べている。一方、人間が生まれるときに選択は不可能だ。2010年代にSNSなどに出現したネットスラング「親ガチャ」が、2021年のいまテレビの情報番組などで大きく取り上げられ、コロナ禍の若者たちの絶望や格差拡大のあらわれなのではと様々に論じられている。俳人で著作家の日野百草氏が、「●●ガチャ」という実感は日本人以外にもあるのかという疑問をきっかけに、ガチャの本質について考えた。

 * * *
「日本の人、羨ましい。いい国ね」

 都下行きつけのインドカレー屋、いつも暇そうだが潰れないのはカラクリがあるのだがそれは置いておく。話の相手はドジョーさん(ネパール人、年齢不詳)、いつも注文を出すときに「ドジョー」(どうぞ)と気持ちのいい声で言ってくれるのでドジョーさん(以降は敬称略)とする。ペイペイも自分で「ペイペイ!」とマスク越しに叫ぶ。愉快な人だ。

「日本いい。ネパール仕事ない」

 遠くネパールからやってきたドジョー、この「ネパール仕事ない」は他のネパール人からも聞いた。「帰りたいけど、仕事ない」「なんにもない、仕事できない」と口々に訴えるネパール人。実際、ネパールは本当に仕事がない。働く場所が少なすぎる。だからみんな出稼ぎに出る。主な出稼ぎ先はネパールとの国境が開放されているインドだが、日本にも10万人近いネパール人がいる。もちろん大半は出稼ぎ(学業との並行含む)だ。すっかり日本の街に溶け込んだインドカレー屋も、じつは多くがネパール人の労働に支えられている。

「ガチャ?」

日本人、運がいい。仕事がある。

 筆者はドジョーに「ガチャ」の話と説明を試みる。「親ガチャ」と呼ばれる親は選べない、生まれる先によって人生が左右されるというネットスラングだ。ソーシャルゲームの抽選機能”ガチャ”にたとえたネタだったが、近年は深刻な話として取り上げられる。そこで親ガチャがあるなら「国ガチャ」もあるはずとネパール人に聞いてみた。

「ガチャ? なに?」

 やはりガチャはわからない。そうこうしているうちに暇そうな他のネパール人が来る。威風堂々のイケメンなので彼のことはバーフバリと呼ぶ。インド映画『バーフバリ』はネパールでも人気、続編『バーフバリ2』はネパール歴代興行収入1位となった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

今季から選手活動を休止することを発表したカーリング女子の本橋麻里(Xより)
《日本が変わってきてますね》ロコ・ソラーレ本橋麻里氏がSNSで参院選投票を促す理由 講演する機会が増えて…支持政党を「推し」と呼ぶ若者にも見解
NEWSポストセブン
白石隆浩死刑囚
《女性を家に連れ込むのが得意》座間9人殺害・白石死刑囚が明かしていた「金を奪って強引な性行為をしてから殺害」のスリル…あまりにも身勝手な主張【死刑執行】
NEWSポストセブン
失言後に記者会見を開いた自民党の鶴保庸介氏(時事通信フォト)
「運のいいことに…」「卒業証書チラ見せ」…失言や騒動で謝罪した政治家たちの実例に学ぶ“やっちゃいけない謝り方”
NEWSポストセブン
球種構成に明らかな変化が(時事通信フォト)
大谷翔平の前半戦の投球「直球が6割超」で見えた“最強の進化”、しかしメジャーでは“フォーシームが決め球”の選手はおらず、組み立てを試行錯誤している段階か
週刊ポスト
参議院選挙に向けてある動きが起こっている(時事通信フォト)
《“参政党ブーム”で割れる歌舞伎町》「俺は彼らに賭けますよ」(ホスト)vs.「トー横の希望と参政党は真逆の存在」(トー横キッズ)取材で見えた若者のリアルな政治意識とは
NEWSポストセブン
ベビーシッターに加えてチャイルドマインダーの資格も取得(横澤夏子公式インスタグラムより)
芸人・横澤夏子の「婚活」で学んだ“ママの人間関係構築術”「スーパー&パークを話のタネに」「LINE IDは減るもんじゃない」
NEWSポストセブン
LINEヤフー現役社員の木村絵里子さん
LINEヤフー現役社員がグラビア挑戦で美しいカラダを披露「上司や同僚も応援してくれています」
NEWSポストセブン
モンゴル滞在を終えて帰国された雅子さま(撮影/JMPA)
雅子さま、戦後80年の“かつてないほどの公務の連続”で体調は極限に近い状態か 夏の3度の静養に愛子さまが同行、スケジュールは美智子さまへの配慮も 
女性セブン
場所前には苦悩も明かしていた新横綱・大の里
新横綱・大の里、場所前に明かしていた苦悩と覚悟 苦手の名古屋場所は「唯一無二の横綱」への起点場所となるか
週刊ポスト
医療的ケア児の娘を殺害した母親の公判が行われた(左はイメージ/Getty、右は福岡地裁)
24時間介護が必要な「医療的ケア児の娘」を殺害…無理心中を計った母親の“心の線”を切った「夫の何気ない言葉」【判決・執行猶予付き懲役3年】
NEWSポストセブン
近況について語った渡邊渚さん(撮影/西條彰仁)
渡邊渚さんが綴る自身の「健康状態」の変化 PTSD発症から2年が経ち「生きることを選択できるようになってきた」
NEWSポストセブン
昨年12月23日、福島県喜多方市の山間部にある民家にクマが出現した(写真はイメージです)
《またもクレーム殺到》「クマを殺すな」「クマがいる土地に人間が住んでるんだ!」ヒグマ駆除後に北海道の役場に電話相次ぐ…猟友会は「ヒグマの肉食化が進んでいる」と警鐘
NEWSポストセブン