気負わない柔らかな佇まいも魅力
親しい表現者たちの助けもあって完成した『さくら、』。『MIRRORLIAR FILMS』への参加も、友人であり、このプロジェクトのプロデューサーを務める山田孝之(37才) に頼まれたことがきっかけだという。「俳優として、アーティストとして、何よりひとりの人間として、他者とのつながりを何よりも大切にしている」と安藤は話す。
「若い頃は、自分の譲れない部分で頑なだったりして周りと衝突することもあったけど、この年齢になって柔軟になったかもしれない。でも、人と人との関わりは昔から大事にしていて、そこは変わってないはずです。人に敬意を持って接するってことは、ずっとやってますね。事務所を辞めてフリーになっても、ドラマに呼んでくれるスタッフがいる。未だに俺を必要としてくれる人たちには感謝しかないです」
次回作にも意欲を見せる安藤。映画監督としての目標は、「世界三大映画祭のコンペティション部門への出品」と言い切った。
「映画人としてはやっぱりベルリン、ヴェネツィア、カンヌを目指したいですよ。台湾映画『セデック・バレ』でヴェネツィア国際映画祭のレッドカーペットを歩いた時、自分の国の名前を背負うことの誇りや重みを知りました。役者としても目指し続けたいけど、今後は監督として活動していきたいという気持ちが強い。日本映画の監督としてあの舞台に帰りたいんです。それになんか、俺行けそうな気がするんですよ(笑い)」
映画監督としてのキャリアはまだ始まったばかりだが、俳優業はもちろんのこと、フォトグラファーとしても活躍する安藤。さまざまな領域を軽やかに行き来し、表現し続けるそのバイタリティの源はなんなのか。
「感謝の気持ちですよね。役者としては、今までお世話になったプロデューサーや監督たちに芝居で恩返しし続けたいし、映画監督としては、愛する友人たちがくれた感性と愛を作品に昇華することで、彼らに報いたい。『さくら、』も尊敬するキャストやスタッフたちのおかげで作れました。彼らへの感謝を示すためには、口で『ありがとう』って言うだけじゃ足りなくて、これからの活動で示すしかないんです」
これからの活動で報いる。そう思うようになったのは、人づてに聞いた北野武さんの言葉がきっかけだったという。
「武さんが『俺が出したアイツ、最近売れてるな』とおっしゃってると“たけし軍団”の人から聞いたことがあって。その時、自分がその後の活動で結果を残したことが、わずかだけど恩返しになってたのかもしれない、と気付きました。
だから、映画監督としての俺も、『さくら、』を手伝ってくれた人たちのために、これからもっと成功しなきゃいけないんです。人生ってそういう恩返しの連鎖なのかもしれないですね」
【プロフィール】
安藤政信 (あんどう・まさのぶ)/1975年、神奈川県出身。1996年、北野武監督の『キッズ・リターン』で主演として俳優デビュー。主な映画出演作に『バトル・ロワイアル』(2000年)、『69 sixty nine』(2004年)、『46億年の恋』(2006年)など。海外での俳優としての評価も高く、『花の生涯~梅蘭芳~』(2009年)や『セデック・バレ』(2011年)、『無無眠』(2015年)などのアジア映画にも多数出演。ポートレイトやファッションカタログなどを手掛け、フォトグラファーとしても活躍する。
◆取材・文/安里和哲、写真/木川将史