スポーツ

落合博満の「非情采配」 完全試合目前の山井投手降板劇の真相

2007年日本シリーズの「山井投手降板劇」は様々な論争を(時事通信フォト)

2007年日本シリーズの「山井投手降板劇」は様々な論争を(時事通信フォト)

 仏頂面で腕を組み無言のままベンチに座る──球史に数多いる監督の中でも毀誉褒貶が激しいのが、落合博満だ。そんな彼の素顔に肉薄したノンフィクション『嫌われた監督』(文藝春秋刊)がベストセラーになっている。著者の鈴木忠平氏が本誌に特別寄稿した。(全4回の第2回)

 * * *
 落合の孤独をもっとも世に知らしめたのは、2007年11月1日のひとつの采配だった。

 日本ハムファイターズとの日本シリーズ、中日は日本一に王手をかけて、本拠地ナゴヤドームでの第5戦を迎えていた。

 この試合で落合は、8回まで1人もランナーを出していない先発投手・山井大介を降板させた。1点差を守る9回のマウンドにストッパーの岩瀬仁紀を送ったのだ。

 完全試合を目前にした投手にリリーフを送った監督は、後にも先にも落合だけだ。

 史上初となる日本シリーズ完全試合のロマンを捨て、わずかでも勝利の確率を高めることを選んだ。落合の采配は、球界の枠を超えて議論となった。この瞬間から「非情」は落合の代名詞となり、中日を半世紀ぶりの日本一へ導いた事実が霞むほどの非難が寄せられた。

 落合の決断に味方はいなかった。

 私はあの日、落合の手記をとることになっていた。全てが終わった後でなら話してもいい──それが落合の提示した条件だった。新聞社と記者にとっては締め切りとの戦いだった。落合に試されているような気がした。

 ゲームが終わり、記者会見、祝勝のビールかけ、テレビ出演と、監督としてのあらゆる仕事を終えた落合が私の前に現れたのは午前零時をまわったころだった。

 薄暗いナゴヤドームの駐車場で立ったまま、落合は語り始めた。そして、最後にあの采配についてポツリとこう言った。

「監督っていうのはな、選手もスタッフもその家族も、全員が乗っている船を目指す港に到着させなけりゃならないんだ。誰か1人のために、その船を沈めるわけにはいかないんだ。そう言えば、わかるだろ?」

 私はその言葉を耳にして確信した。

 あの交代劇には「事実」と「真実」があった。

関連キーワード

関連記事

トピックス

10月に公然わいせつ罪で逮捕された草間リチャード敬太被告
《グループ脱退を発表》「Aぇ! group」草間リチャード敬太、逮捕直前に見せていた「マスク姿での奇行」 公然わいせつで略式起訴【マスク姿で周囲を徘徊】
NEWSポストセブン
65歳ストーカー女性からの被害状況を明かした中村敬斗(時事通信フォト)
《恐怖の粘着メッセージ》中村敬斗選手(25)へのつきまといで65歳の女が逮捕 容疑者がインスタ投稿していた「愛の言葉」 SNS時代の深刻なストーカー被害
NEWSポストセブン
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
「はい!お付き合いしています」水上恒司(26)が“秒速回答、背景にあった恋愛哲学「ごまかすのは相手に失礼」
NEWSポストセブン
三田寛子と能條愛未は同じアイドル出身(右は時事通信)
《梨園に誕生する元アイドルの嫁姑》三田寛子と能條愛未の関係はうまくいくか? 乃木坂46時代の経験も強み、義母に素直に甘えられるかがカギに
NEWSポストセブン
各地でクマの被害が相次いでいる(クマの画像はサンプルです/2023年秋田県でクマに襲われ負傷した男性)
ヒグマが自動車事故と同等の力で夫の皮膚や体内組織を損傷…60代夫婦が「熊の通り道」で直面した“衝撃の恐怖体験”《2000年代に発生したクマ被害》
NEWSポストセブン
対談を行った歌人の俵万智さんと動物言語学者の鈴木俊貴さん
歌人・俵万智さんと「鳥の言葉がわかる」鈴木俊貴さんが送る令和の子どもたちへメッセージ「体験を言葉で振り返る時間こそが人間のいとなみ」【特別対談】
NEWSポストセブン
大谷翔平選手、妻・真美子さんの“デコピンコーデ”が話題に(Xより)
《大谷選手の隣で“控えめ”スマイル》真美子さん、MVP受賞の場で披露の“デコピン色ワンピ”は入手困難品…ブランドが回答「ブティックにも一般のお客様から問い合わせを頂いています」
NEWSポストセブン
佳子さまの“ショッキングピンク”のドレスが話題に(時事通信フォト)
《5万円超の“蛍光ピンク服”》佳子さまがお召しになった“推しブランド”…過去にもロイヤルブルーの “イロチ”ドレス、ブラジル訪問では「カメリアワンピース」が話題に
NEWSポストセブン
「横浜アンパンマンこどもミュージアム」でパパ同士のケンカが拡散された(目撃者提供)
《フル動画入手》アンパンマンショー“パパ同士のケンカ”のきっかけは戦慄の頭突き…目撃者が語る 施設側は「今後もスタッフ一丸となって対応」
NEWSポストセブン
大谷翔平を支え続けた真美子さん
《大谷翔平よりもスゴイ?》真美子さんの完璧“MVP妻”伝説「奥様会へのお土産は1万5000円のケーキ」「パレードでスポンサー企業のペットボトル」…“夫婦でCM共演”への期待も
週刊ポスト
俳優の水上恒司が年上女性と真剣交際していることがわかった
【本人が語った「大事な存在」】水上恒司(26)、初ロマンスは“マギー似”の年上女性 直撃に「別に隠すようなことではないと思うので」と堂々宣言
NEWSポストセブン
劉勁松・中国外務省アジア局長(時事通信フォト)
「普段はそういったことはしない人」中国外交官の“両手ポケットイン”動画が拡散、日本側に「頭下げ」疑惑…中国側の“パフォーマンス”との見方も
NEWSポストセブン