PL戦で延長17回を投げぬいた横浜の松坂大輔投手(1998年。写真:時事通信フォト)

1998年のPL戦での松坂大輔投手(写真/時事通信フォト)

 そんな状態まで、現役を続けることができたのは「あきらめの悪さ」と語った松坂選手だが、引退を考えるうちに“あきらめ”の意味が変わっていったのではないだろうか。「諦める」という言葉を聞けば、「断念する、放棄する、望みを捨てる、逃げる」という否定的な意味と同時に“後悔”という言葉が浮かんでくる。「もし今諦めてしまったら…」と考えると、後悔する感情の大きさ、時間の長さ、失うものの大きさを予想するものだ。

 そして人には、それらを過大に見積もる「インパクト・バイアス」という傾向がある。まして松坂選手のように最初の10年の活躍があれば、その分バイアスは大きくなり、今の自分の状態を頭で分かっていても、心では自分を諦めきれなかっただろうことは想像がつく。

 嫌なイメージのある「諦める」という言葉だが、その語源を紐解くと、「つまびらかにする、十分に見てわかる、心を晴らす」という意味だという。単に否定的なものではなく、自分で納得して現状を受け入れ、解決する方法を見つけ、心を晴らすというのが、この言葉が持つ本来の意味らしい。であれば、“あきらめ方”には2種類あることになる。否定的で後ろ向きなものと、前向きで肯定的なものだ。バイアスと折り合いをつけ、諦めも前向きなものにすれば、人はまた違う道を見出せるのだろう。

 諦めの悪さの原点を、1998年の夏の甲子園、PL学園との試合の経験から「最後まであきらめなければ報われる。勝てる。喜べると」と話した松坂選手。引退試合後、西武の仲間たちの手で胴上げされた松坂選手は、両手を大きく広げ、これ以上ないほどの最高の笑顔を見せ宙に舞っていた。

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