全員がにおう？ 完全オリジナル脚本に覚える“リアタイ欲”
『最愛』と前記2作の大きな違いは、原作がないことだろう。脚本家の奥寺佐渡子さんと、清水友佳子さんの両名によるオリジナル脚本だ。まずは現在放送中の『最愛』のあらすじを紹介しよう。
真田梨央（吉高由里子）は『真田ウェルネス』の代表取締役として、製薬事業を手がけている。彼女は15年前まで、亡くなった父親が経営する大学陸上部の寮を手伝いながら高校生活を送っていた。そこで梨央と両思いだったのが、部員の宮崎大輝（松下洸平）だ。かつて思いを寄せ合っていた……という設定で『白夜行』と『Nのために』が浮かんだ。純度の高い年齢期なのに甘酸っぱい物語ではなく、敢えて落とされる“影”。
梨央は明確な記憶が（おそらく）ないものの、当時一人の大学生に暴行を受けそうになり、15年後、その大学生の白骨遺体が土中から発見された。誰かに殺されたはず。犯人は現在、行方不明になっている梨央の弟かもしれないが、真相は分からない。大学生の遺体発見と時を同じくして、その父親が殺害される事件も発生する。担当の刑事は大輝。運命のふたりは「容疑者」と「警察官」として15年ぶりに再会をはたして、いくつもの事件が動き出していく。
あらすじを書き並べるだけで、だいぶドラマティックな『最愛』は、物語の先がまったく読めない。原作がないという理由だけではなく、今のところ出演者全員が怪しいのだ。梨央はまだ何か秘密を握っているかもしれない。真田家の側近である加瀬（井浦新）もいい人そうだけど、どんでん返しがありそうだ。自分が殺人犯かもしれないと知って、行方をくらました梨央の弟はいつ登場？ いやひょっとしたらもう、田舎のおばあちゃんも何か関係があるんじゃ……と、放送が終わるごとに疑念がわく。毎シーンに何かがプンプンとにおっている。
TBSの過去作にも見られる“主人公の幼少期〜思春期の衝動”が事件の真実だとしたら、だ。梨央と大輝は結ばれず、大きな悲しい結末が待っているかもしれない。
そんなことを悶々と考えながら、ついリアタイをしてしまう。コロナ自粛も緩和されて、外食ができるようになった華金なのに物語の展開から目を離すことができないのである。これぞまさに作品への『最愛』なのかもしれないと気づいたところで、金曜夜を待ちたい。
【プロフィール】こばやし・ひさの／静岡県浜松市出身のエッセイスト、ライター、編集者、クリエイティブディレクター。これまでに企画、編集、執筆を手がけた単行本は100冊以上。女性の意識改革をライトに提案したエッセイ『結婚してもしなくてもうるわしきかな人生』（KKベストセラーズ刊）が好評発売中。
