ムロツヨシも踊る

コメディが務まるからこそムロならではのシリアスさが生まれる

 ムロの演じる役に対して、「いつもふざけている人」という印象を持っていたのは筆者だけではないだろう。2005年公開の映画『サマータイムマシン・ブルース』への出演を皮切りに膨大な数の映像作品に出演してきたが、ドラマ『今日から俺は!!』(日本テレビ系)や『親バカ青春白書』(日本テレビ系)などの福田雄一(53才)作品をはじめとし、主にコメディリリーフとして作品に貢献しているイメージが圧倒的に強いはずだ。

 しかし、そのイメージがあるからこそ、そうでない表情を見せた時の効果は大きい。例えば記憶に新しいのが、ドラマ『ハコヅメ〜たたかう!交番女子〜』(日本テレビ系)で演じていた交番の所長役。事なかれ主義のいい加減な人物かと思いきや、いざ自分の部下が危険な目に遭った際には、まるで人が変わったかのような真剣さが印象的だった。これを演じるムロはセリフに頼らず、目ヂカラの強弱や、硬軟変化する表情だけで内なる緊張感を訴えていたと思う。単なるコメディリリーフではなく、実に器用な俳優なのだ。

 この一面が全面的に押し出された作品が、今作『マイ・ダディ』である。ムロ演じる一男は誰のことも恨まず、妬まず、心根の優しい善人だ。しかしそんな彼が、妻を失い、娘が大病に冒され、さらに娘は実の子ではないと判明。一男はこれでもかと精神的に追い詰められる。だが、作品のカラーが暗くシリアスに染まっていく一方で、一男のひたむきさや真っ直ぐさ、朗らかさがシリアス一辺倒にさせず、安らぎすら与えていた。

“コメディ芝居”を封じ、緊張感のある作品でも安らぎを与えられるのは、肩の力の抜けた“脱力系”の演技を得意とする彼だからこそ生み出せるものだろう。ムロがコメディアンとして替えがきかない俳優であることは確かだが、パブリックイメージを覆しつつ、その上でさらに異なるベクトルで彼にしか演じられないキャラクターを見せてくれた好演ぶりだった。

【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。

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