映画『男はつらいよ』シリーズといえば、渥美清さんが演じる「フーテンの寅」が旅先でマドンナに出会い、恋をするのがお約束の人情喜劇だ。マドンナには毎回、魅力的な女優がキャスティングされた。今年、生誕75周年になる大原麗子さんも二度にわたりマドンナを務めた。二度目のマドンナ役となった『男はつらいよ 寅次郎真実一路』(1984年 監督/山田洋次)の舞台、薩摩半島をめぐろう。
【あらすじ】
上野の焼き鳥屋で車寅次郎(渥美清)と意気投合した証券マンの富永健吉(米倉斉加年)が仕事に疲れて蒸発。鹿児島で見掛けたという情報を頼りに、寅次郎は健吉の妻・ふじ子(大原麗子)と捜索しに行くが、発見できなかった。柴又に戻った寅次郎は、彼女に恋をした自分に気付いて悩む。
●鰻温泉
蒸発した健吉が身を寄せた鰻温泉。
●城山展望台
寅次郎とふじ子は城山展望台から桜島を眺めて鹿児島を後にした。
●丸木浜
ふじ子が物思いに耽った丸木浜。
●加世田麓
2人が健吉の情報を聞きに行く家は、2019年に日本遺産に選ばれた加世田麓にある。用水路沿いに石垣や武家屋敷などがあり、歴史的な街並みが美しい。
大原演じるふじ子の清楚さと健気さが光る一作である。健吉と飲み明かした翌朝、寅次郎は目が覚めると茨城・牛久沼の彼の自宅にいた。朝食を作るふじ子の清楚な立ち姿に、寅次郎は気恥ずかしくなった。
後日、手土産を持って訪れると、ふじ子が健気に「……主人いないの」と涙を溜めて呟く。夫を捜索しに行った夜、同じ宿に泊まるとあらぬ噂が立つと言う寅次郎に「つまんない、寅さん」と言い捨てる姿も色っぽい。
(一部敬称略)
写真提供/大原政光
※週刊ポスト2021年11月19・26日号