ライフ

【書評】政府の無策が悔やまれる…脱炭素化の切り札『水素社会入門』

『[カーボンニュートラル]水素社会入門』/著・西宮伸幸

『[カーボンニュートラル]水素社会入門』/著・西宮伸幸

【書評】『[カーボンニュートラル]水素社会入門』/西宮伸幸・著/KAWADE夢新書/979円
【評者】岩瀬達哉(ノンフィクション作家)

 いまやローマ教皇が、CO2削減を呼びかけるほど、地球温暖化対策は、世界のニューノーマルになっている。日本にしても昨年、「2050年までに温室効果ガスの排出をゼロにする」と宣言。電力エネルギーの「76%を占める火力発電」を4割削減し、原発の稼働率や、再生可能エネルギーの比率を引き上げる「基本計画」を国際公約とした。

 しかし福島第一原発の事故の記憶はいまだ生々しく、再エネの核となる風力発電にしても、常に偏西風が吹いているヨーロッパと違い、日本は台風の通り道にある。大型台風に向いていない環境下にあって、火力の発電量を引き下げて大丈夫なのか。

 著書は、これまでの研究成果を含むさまざまなデータや事例を駆使し、日本経済が簡単には衰退しないことを描きだす。CO2を出さない「カーボンニュートラルの切り札」としての「水素社会」が、「背中が見えるところまできている」からだ。

 化学記号や馴染みのない専門用語に、多少戸惑うかもしれないが、水素は「容易に製造することができ」、「貯蔵ができて、短距離輸送にも長距離輸送にも対応可能」なエネルギーの理想型。それだけに、水素社会が実現すれば、「エネルギーの利用が格段に便利になる」という。

 コスト面でも、ガソリン車だと1キロ走るのに「10円」かかるのに対し、すでに販売されている水素自動車は「8.8円」。しかも水素が量産されれば、価格はさらに下がる。「エネルギー効率」にしても、ガソリン車の約2倍あり、「東京―大阪間を無補給で走破できる」パワーがあるのである。

 現状の火力発電所にしても、「10%の水素を混ぜて燃焼させれば、CO2排出量を10%減らせる」。時間をかけて蓄積されてきた研究成果を生かせば、地球温暖化対策で日本がリーダーシップをとれるはずが、政府の無策がそれを阻んでいる。「技術的な“駒”はぜんぶ揃っている。役者は揃っているのに、脚本がない」。そのことが、つくづく悔やまれる。

※週刊ポスト2021年12月3日号

関連記事

トピックス

国民に笑いを届け続けた稀代のコント師・志村けんさん(共同通信)
《恋人との密会や空き巣被害も》「売物件」となった志村けんさんの3億円豪邸…高級時計や指輪、トロフィーは無造作に置かれていたのに「金庫にあった大切なモノ」
NEWSポストセブン
国民に「リトル・マリウス」と呼ばれ親しまれてきたマリウス・ボルグ・ホイビー氏(NTB/共同通信イメージズ)
ノルウェー王室の人気者「リトル・マリウス」がレイプ4件を含む32件の罪で衝撃の起訴「壁に刺さったナイフ」「複数の女性の性的画像」
NEWSポストセブン
愛子さまが佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”とは(時事通信フォト)
《淡いピンクがイメージカラー》「オシャレになった」「洗練されていく」と評判の愛子さま、佳子さまから学ぶ“ファッション哲学”
NEWSポストセブン
年下の新恋人ができたという女優の遠野なぎこ
《部屋のカーテンはそのまま》女優・遠野なぎこさん急死から2カ月、生前愛用していた携帯電話に連絡すると…「ポストに届き続ける郵便物」自宅マンションの現在
NEWSポストセブン
背中にびっしりとタトゥーが施された犬が中国で物議に(FB,REDより)
《犬の背中にびっしりと龍のタトゥー》中国で“タトゥー犬”が大炎上、飼い主は「麻酔なしで彫った」「こいつは痛みを感じないんだよ」と豪語
NEWSポストセブン
(インスタグラムより)
《“1日で100人と寝る”チャレンジで物議》イギリス人インフルエンサー女性(24)の両親が現地メディアで涙の激白「育て方を間違ったんじゃないか」
NEWSポストセブン
藤澤五月さん(時事通信フォト)
《五輪出場消滅したロコ・ソラーレの今後》藤澤五月は「次のことをゆっくり考える」ライフステージが変化…メンバーに突きつけられた4年後への高いハードル
NEWSポストセブン
石橋貴明、現在の様子
《白髪姿の石橋貴明》「元気で、笑っていてくれさえすれば…」沈黙する元妻・鈴木保奈美がSNSに記していた“家族への本心”と“背負う繋がり”
NEWSポストセブン
イギリス出身のインフルエンサーであるボニー・ブルー(本人のインスタグラムより)
「タダで行為できます」騒動の金髪美女インフルエンサー(26)が“イギリス9都市をめぐる過激バスツアー”開催「どの都市が私を一番満たしてくれる?」
NEWSポストセブン
ドバイのアパートにて違法薬物所持の疑いで逮捕されたイギリス出身のミア・オブライエン容疑者(23)(寄付サイト『GoFundMe』より)
「性器に電気を流された」「監房に7人、レイプは日常茶飯事」ドバイ“地獄の刑務所”に収監されたイギリス人女性容疑者(23)の過酷な環境《アラビア語の裁判で終身刑》
NEWSポストセブン
Aさんの乳首や指を切断したなどとして逮捕、起訴された
「痛がるのを見るのが好き」恋人の指を切断した被告女性(23)の猟奇的素顔…検察が明かしたスマホ禁止、通帳没収の“心理的支配”
NEWSポストセブン
指定暴力団六代目山口組の司忍組長(時事通信フォト)
【七代目山口組へのカウントダウン】司忍組長、竹内照明若頭が夏休み返上…頻発する「臨時人事異動」 関係者が気を揉む「弘道会独占体制」への懸念
NEWSポストセブン