「男ばかりの4人兄弟でしたが誰も父の跡を継いでなかったんです。近所の農家に手伝ってもらい、しんどそうに海に出続ける父の姿を見て、“戻ろうかな”と思った。海の近くで育ったから、やっぱりここが落ち着く、ここで生活したいという気持ちになったことも理由の1つです」(川畑さん)
現在は、広げると小学校の体育館ほどの大きさになる定置網を使ってあじやさば、かんぱちなどを獲っているという。
「5年ほど前に網の規模を拡大したこともあり、漁獲量の減少はそれほど感じられませんが、温暖化に伴い、沖縄などで漁獲される魚種が増えてきました。さらに、南方系の海藻が進出し、地元の海から海草の一種であるアマモが消滅してしまった。
水温の影響を受けやすい海の藻や植物が変化すると魚種や漁獲の時期も変わります。私の地元の漁師は『アオリイカの資源が減った』と言いますし、じわじわと影響が及んできていることを感じます」(川畑さん)
木村さんは、いま危機感を持たなければ魚食文化は廃れてしまうと主張する。
「すでに沖縄では水温が上がったことで魚のすみかとなる珊瑚礁が減少していると聞きます。この先、温暖化の漁業への影響がさらに出てくることは間違いなく、いまのうちから危機感を持って対処することが大切です」
増え続ける「海洋ゴミ」もまた、魚たちを苦しめる要因になっている。特に近年、ペットボトルやビニール袋などのプラスチックゴミの量が増加したことで問題はさらに深刻化している。
「海のゴミ自体は、昔からある問題です。しかし当時のゴミは食べ物の残りや木、草など海や山に捨てたとしてもやがて腐って自然に還るため、環境に悪影響が出ることはほとんどありませんでした。ところが現在、海洋ゴミの半分以上を占めるプラスチックゴミは自然に還ることなく永久に残り続けます。街中で捨てられたゴミは雨や風で川に流れ出し、最終的に海に到達する例も多く、海ゴミは増える一方です」(坂本さん)
プラスチックは耐用年数が非常に長く、400年以上も海を漂うとみられるケースがある。魚類や海鳥、海生哺乳動物などがエサと間違って口に入れて命を落とすことも少なくない。
環境保全団体のWWFジャパンによると、世界には計1億5000万トン以上のプラスチックゴミが存在し、毎年およそ800万トンが新たに海に流れ出る。これはジャンボジェット5万機分という膨大な分量だ。
「プラスチックは蓄積するため、毎年海の環境が悪化していることは確かです。また、近年は海外から流れ着くゴミも多い。特に中国の海洋ゴミは年間で約350万トンといわれており、日本の60倍近くになります。海ゴミ問題は国際問題でもあるのです。海ゴミ問題に特効薬はありません。地味なようですが、愚直にゴミを一つひとつ拾って、処理していくしかありません」(坂本さん)
※女性セブン2021年12月9日号