「国民的なパニックを引き起こしかねないので、“可能性が高まっている”とは口が裂けても言えないでしょう」
立命館大学環太平洋文明研究センター特任教授の高橋学さんは、気象庁の対応をこう見ている。
12月3日午前6時37分、山梨県東部の富士五湖を震源とするマグニチュード(以下、M)4.9、最大震度5弱の地震が発生。SNSには、富士山の噴火を危惧する書き込みがあふれた。
それから約3時間後の9時28分、和歌山県沖の紀伊水道を震源にM5.4、最大震度5弱の地震が起きた。すると今度は、南海トラフ地震の前兆ではないかと心配する声が相次いだ。
気象庁は会見を開き、2つの地震について「富士山の火山活動に、直接的な関係はない」「南海トラフ地震の可能性が高まったわけではない」との認識を示した。しかし冒頭の高橋さんは、地震の原因を突き詰めれば、危険性の高まりが見えてくると指摘する。
南海トラフ地震は、ユーラシアプレートの下に、毎年数cmの速度で潜り込んでいるフィリピン海プレートの動きが大きく影響する。フィリピン海プレートによってユーラシアプレートにひずみが蓄積し、それが限界に達して跳ね上がることで南海トラフ地震が発生するとされる。
南海トラフの震源域は静岡県沖から宮崎県沖までと長く、広範囲に被害をもたらす。政府は2019年、今後30年以内に南海トラフ地震が発生する確率を80%と予測した。そのフィリピン海プレートに、危険な兆候が見てとれるという。