物語がないからこそ胸を打つ、圧巻のパフォーマンス
本作はあくまでも、あらすじのない「コンサート」。俳優たちはそれぞれのソロパートを歌いこそすれ、作中を通しての役名はなく、一様にシックなモノトーンの衣装に身を包んでいる。
しかし、ひとたび音楽が始まれば、観客の脳裏にはたちまち、名場面があざやかによみがえる。
第二次世界大戦直後にアルゼンチンの大統領夫人となったエバ・ペロンの一生を描いた『エビータ』のエビータ役や『リトルマーメイド』日本初演のアリエル役などを演じた谷原志音による「共にいてアルゼンチーナ」では、エビータが民衆に優しく語り掛けるあの名場面の空気感を見事に再現。
「ミストフェリーズ~マジック猫」では、『キャッツ』のランパスキャット役や『アラジン』のタイトルロールなどを務める笠松哲朗がソロパートを担い、優雅なハイジャンプとマジックでも客席を沸かせた。
本コンサートは、ロックからオペラまで、アンドリュー・ロイド=ウェバーの世界観を余すことなく詰め込まれている。どのナンバーをとっても、歌やダンスのクオリティは、名実ともに日本一の劇団四季そのものだ。あらすじはなくとも、やはりこのコンサートは「劇団四季のミュージカル」なのだと思い知らせてくれる。
そのどれもが、ここでしか観ることのできない演出なのだから、劇場に足を運ばない手はないだろう。
さらに劇団四季の快進”劇”はこれ以外にも。
2022年10月より東京ディズニーリゾート内の舞浜アンフィシアター(千葉)で『美女と野獣』のロングラン公演を行うと発表したのだ。
『美女と野獣』は、1995年に「東京・大阪同時ロングラン」という前代未聞の上演方式で初演。以来、9都市でのべ19公演が行われ、各地で高い人気を博している。首都圏では9年ぶりとなる今回は中国・上海ディズニーリゾートで上演されたバージョン(2018〜2020年)を踏襲。新たな楽曲が追加され、舞台美術や台本・演出も刷新されるというから、まだ見ぬ新生『美女と野獣』に胸が躍る。
チケット販売は2022年5月を予定。また、東京ディズニーリゾートのテーマパークとミュージカルをセットにしたチケットの販売も検討しているというから、楽しみは二重三重にも膨らむばかりだ。
誰もが知っている劇団四季でありながら、まだ誰も見たことのない劇団四季、そして生まれ変わった劇団四季を、心ゆくまで堪能してほしい。
撮影/五十嵐美弥