国内

歌舞伎町の治安を守ったマル暴刑事が「歌舞伎町で飲まない」理由

元警視庁暴力団担当刑事・櫻井裕一氏

元警視庁暴力団担当刑事・櫻井裕一氏

 元警視庁暴力団担当刑事・櫻井裕一氏は数々の暴力団関連捜査に携わった“伝説の刑事”。自身の体験を『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)にまとめた櫻井氏が、40年近く「マル暴刑事」一筋で過ごした熱い半生を語った。【全3回の第3回】

 * * *
 警視庁では、櫻井氏にまつわる「伝説」が語り継がれる。2014年に新宿署で組対課長になって以降、櫻井氏はほとんど家に帰らず、新宿署で寝泊まりしていたというのだ。

 だが、櫻井氏は「そんな、たいそうなことではありませんよ」と笑う。

「令状請求などの手続きは管理職(指定警部以上)が決裁するので、そういう立場の者が誰か署内にいると便利なんです。歌舞伎町では、現場の刑事だけでは対応できない重要事件もよく起きるので」

 歌舞伎町は眠らない。商売人も客も眠らない。ゆえに警察も眠らない。毎朝7時から新宿署の会議室は賑やかだ。

「刑事課、組対課、交通課、生安課などの課長クラスが集まって、前日の夕方から朝までに寄せられた110番通報の内容や処理状況をチェックしています。歌舞伎町で発生する事件の多くはヤクザ者の絡んだ喧嘩や外国人の万引き、ぼったくり、薬物使用者の錯乱暴れなど。通報を受けての現行犯逮捕が非常に多い」

 110番処理のチェックでは、逮捕者の有無と、その逮捕が適正だったかどうかが問われる。

「たとえば、私たちマル暴。ヤクザが絡む喧嘩の110番で出動したのに、逮捕者が出なかった。こうなったら大変です。係長あたりがすぐに呼び出されて、『お前、寿司屋のオヤジか! 現象事案なのになんで握った?』とドヤされることになります。『握る』とは、『ヤクザに丸め込まれて、できる事件を事件化しなかった』という意味です」

 なぜ、逮捕できるのにしないのか。櫻井氏は「単純なサボりだ」と指摘する。ヤクザ絡みではどんな些細な事案でも、それを事件化するには相応の労力と手間がかかる。そのため、積極性に欠けた捜査員は、事件を自分の都合で選んでしまう傾向が否めないのだそうだ。

 櫻井氏は歌舞伎町では酒を飲まないという。

「地方の刑事たちの中には、歌舞伎町で酔っぱらうだけじゃなく、ぼったくりにまで遭うような者もいますが、新宿署員は飲みません。歌舞伎町にはいたるところに監視カメラがあるでしょう。そのカメラのひとつひとつを新宿署が常時監視して、必要に応じて、リモコンでレンズの角度まで動かして撮影していることはご存じですか? だから我々が飲むときは、西口の居酒屋です。酔っぱらっている姿を、逐一、仲間に見られていたら楽しめませんからね」

 櫻井氏の生活には、骨の髄まで「マル暴」の習慣が刻み込まれている。

【プロフィール】
櫻井裕一(さくらい・ゆういち)/1957年、東京都生まれ。元警視庁警視。1976年、警視庁入庁。新宿署組織犯罪対策課課長、警視庁組織犯罪対策第四課管理官などを歴任。2018年、退官時に「警視総監特別賞(短刀)」を受賞。2020年、「STeam Research & Consulting」を設立。現在、飲料メーカー「伊藤園」の渉外業務にも従事。『マル暴 警視庁暴力団担当刑事』(小学館新書)。

※週刊ポスト2021年12月10日号

関連記事

トピックス

本格的に中国進出をめざすならば…(時事通信フォト)
《年内結婚報道》橋本環奈と中川大志の「結婚生活」に立ちはだかる“1万kmの距離” 2人の異なる“海外進出の希望先”
週刊ポスト
「池田温泉旅館 たち川」の部屋風呂に「温泉偽装疑惑」。左はHPより(現在は削除済み)、右は従業員提供
「水道水にカップ5杯の重曹を入れてグルグル…」岐阜県・池田温泉「高級旅館」の部屋風呂に“温泉偽装”疑惑 ヌルヌルと評判のお湯の真実は…“夜逃げ”オーナーは直撃に「誰からのリークなの? それ」
NEWSポストセブン
これまでジャズ歌手などとしても活動してきた参政党・さや氏(写真/共同通信社)
参政党・さや氏、歌手時代のトラブル証言 ジャズバーのママが「カチンときて縁を切っちゃいました」、さや氏は「そうした事実はない」…真っ向食い違う言い分
週刊ポスト
もうすぐ双子のママになる。Numero.jpより。
Photos:Mika Ninagawa
中川翔子3年にわたる不妊治療と2度の流産を経験 。 双子の男の子のママになる妊婦姿を披露して話題に
NEWSポストセブン
錦織圭とユニクロの関係はどうなるか(写真/共同通信社)
「ご本人からの誠意ある謝罪があった」“ユニクロ不倫”錦織圭、ファーストリテイリング広報担当が明かしたスポンサー契約継続の理由
週刊ポスト
趣里と父親である水谷豊
《女優・趣里の現在》パートナー・三山凌輝のトラブルで「活動セーブ」も…突破口となる“初の父娘共演”映画は来年公開へ
NEWSポストセブン
岐阜の「池田温泉旅館 たち川」が突然の閉鎖、事業者が夜逃げした(左は旅館のInstagramより)
【スクープ】岐阜県の名所・池田温泉の人気旅館が突然の閉鎖 町が運営委託した事業者が“夜逃げ”していた! 町長からは228万円の督促状、従業員が告発する「オーナーの計画」 給料も未払いに
NEWSポストセブン
山尾志桜里氏は2017年にダブル不倫が報じられた(時事通信フォト)
参院選落選・山尾志桜里氏が明かした“国民民主党への本音”と“国政復帰への強い意欲”「組織としての統治不全は相当深刻だが…」「1人で判断せず、決断していきたい」
NEWSポストセブン
オンカジ問題に揺れるフジ(時事通信)。右は鈴木善貴容疑者のSNSより
止まらない「オンカジドミノ退社」フジテレビ社内で話題を呼ぶ
NEWSポストセブン
中村七之助の熱愛が発覚
《元人気芸妓とゴールイン》中村七之助、“結婚しない”宣言のルーツに「ケンカで肋骨にヒビ」「1日に何度もキス」全力で愛し合う両親の姿
NEWSポストセブン
詐称疑惑の渦中にある静岡県伊東市の田久保眞紀市長(HP/Xより)
《まさかの“続投”表明》田久保眞紀市長の実母が語った娘の“正義感”「中国人のペンションに単身乗り込んでいって…」
NEWSポストセブン
大谷が購入したハワイの別荘の広告が消えた(共同通信)
【スクープ】大谷翔平「25億円ハワイ別荘」HPから本人が消えた! 今年夏完成予定の工期は大幅な遅れ…今年1月には「真美子さん写真流出騒動」も
NEWSポストセブン